鬼の子







渡辺 綱(わたなべ つな)・・・・・です」


教壇の前に立ち、ニコリともせず無表情の綺麗な顔のまま、自分の名前だけの簡潔な自己紹介をした。落ち着いた低い声は聞いていて居心地の良い声だった。




「席は、えっーと、そこの真ん中の空いてる席に座ってくれる?」


担任が指をさした先には誰も座っていない机と椅子があった。教室のど真ん中の席は、右隣はクラスの中心にいる陽気な男子、左隣は学級委員長。転校生のために準備されたような、うってつけの席だった。


「先生、俺後ろでもいいっすか?」


「いやーでも後ろはなあ・・・・・」


担任は気まずそうな顔をして、私をチラリと見た。私がいるから、ダメだということだろう。

はい、はい。
私が存在して、すみませんね。


一応大人で先生と言う立場なのに、クラスメイトと同じように私に怪訝な態度を平気で見せる。


そんな担任の様子に小さなモヤモヤが込み上げてきて顔を見てるのが嫌になり、机にうつ伏せになり目を伏せた。
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