鬼の子
「とりあえず、落書き消すか」
そういうと、何を考えているのかポケットから取り出した高級そうなハンカチで落書きを擦り始めた。
「綱くん?!なにしてんの?ハンカチ汚れちゃうよ!」
「ダメだってば!ハンカチは雑巾じゃないから!」
私がいくら止めても、動かす手を止めようとしない綱くんに焦りまくりな私は、思わず腕をグイッと掴んでしまった。
ようやく動きを止めた綱くんと視線が重なる。
触れている手が熱くなり、慌ててパッと手を離した。
「ご、ごめん」
「お前は、謝りすぎ。そんな簡単に謝るなよ」
耳に残る低い声が降り注いだ。一瞬止まったはずの、落書きを落とそうと奮闘する手は、また動き出した。お互いの攻防が始まる。