鬼の子
『 あ り が と う 』
目の前にある、大きな背中に指で「ありがとう」となぞってみた。
一瞬、ビクッと動いたが、その後は何事もなかったかのように、平然と前を向いたままだ。
ガヤガヤと談笑しているクラスメイトは、誰も気付いていない。2人だけの秘密のような気がして、胸がいっぱいになる。
耳がほんのり赤くなったのは、気のせいだろうか。真意は分からないが、私の心は窓から見える青空と同じように晴れていた。
沸き立つ気持ちを胸にしまって、彼の背中と外の景色を目に焼き付けた。