おもかげ
遠くに響く打ち上げ花火の音を聞いて初めて、
水面を照らす色とりどりな光に気がついた。
「始まったよ」
『やっぱり、此処から見る花火が一番だね』
木々の間から望む湖面をキャンパスに仕立てて、
打ち上げ花火が彩る光と闇、
モノクロとカラーのコントラストを描く。
光の花が咲いてから、
音が届くまでのタイムラグが、
二人を包む特別な空間を醸し出している。
花火が時を巻き戻す、
『離さないでって言ったのに、
私の手を離しちゃったでしょ』
「あぁ、そうだったね、、」
あれは去年の夏祭りの夜だった、
手を繋いでいた筈の二人を、不意に割り込んだ人の流れが断ち切った。
人波に押されて、遠ざかる彼女の姿を見失った、、
二度と会えない、
そんな離別が訪れたような不安に駆られて、
人波を掻き分けて、夢中で探した。
クライマックスの花火が夜空に大輪を咲かせた時、
動きを止めて見上げる人混みの中に、
花火に照らし出された、
美しい横顔を見つけると、
儚く消えてしまいそうな気がして、
抱きしめた手を二度と離さないと誓う。
『苦しいよ、どうしたの?』
「僕から離れちゃだめだよ」
『私はずっと此処にいたよ、
あなたが迷子になったんじゃない』