カクテル
3. ウィスキートディ(誘惑の仕草)
「へぇー可愛い子だねー」
僕のデスクの上にある卓上カレンダーに挟まれた写真を見て、麻理さんが興味深げに話しかけてきた。
「彼女? まだ子供みたいに見えるけど」
「短大の2年生です」
「いいなぁ、一番楽しい時期だね、何もかも輝いて見える、私もそんな時があったなー。もう何年も前だけど、、」
「何を言ってるんですか、今の麻理さんも十分輝いてますよ」
「嬉しい事言ってくれるじゃない、
でもね、女が輝くかどうかは相手の男次第だよ、
彼の為にもっと綺麗になりたい、もっと良い女になりたい、そんな気持ちが女を輝かせるの」
急に声のトーンが落ちて表情が翳った。
まるで今の自分はそうでないかのように、麻理さんは沈んだ顔で僕に言葉を返した、
彼氏のことを言ってるのだろうか、
上手くいってないのかな、、
麻理さんは意味深な言葉を残して席を後にした。
それから2週間が過ぎた、週末の金曜日
田中主任が麻理さんを自分の席に呼んで、
小さな声で何かを話していた、
深刻な話なのか、主任は険しい表情をしている。
まぁ、主任に笑みがないのはいつもの事だけど、
それを頷きながら聞いている麻理さんにも笑顔はない。
やがて、話が終わって席に戻る麻理さんの表情が暗く沈んでいる事に気づいた。
「主任に何か言われたんですか?」
「えっ、私そんな顔してた?」
「すごいショックを受けた顔をしてましたよ」
麻理さんは視線を落として、椅子にゆっくり座りながら、
「大丈夫だよ、慣れてるから、、」
自分に言い聞かせる独り言のように呟いた。
何に慣れているのかは聞けなかった、
仕事でミスをして怒られるような彼女ではないから
僕の知らない彼女に関する事だろうか。