カクテル
会社から最寄りの地下鉄の駅まではゆっくり歩いても約10分程度、
麻理さんと2人並んで駅を目指して歩いた。
「君嶋くん、こういう時はね男は車道側を歩くの、状況に応じて常に意識して行動してれば、やがて相手の女性もその優しさに気づいてくれるからね」
「へぇ、そうなんですね」
麻理さんが、仕事だけでなく僕の人生の教育担当のような気がしてきた。
道すがら麻理さんは僕を質問攻めにした。
「君嶋くんの彼女は、どんな子なの?」
「ひと言で言うと、仮面ライダーに出てくるショッカーみたいなもんです」
「ショッカー? どういう意味?」
「はい、弱っチーって感じかな、泣き虫でおっちょこちょいで、僕がついていないと心配でほっとけません」
「はははっ、私と正反対の子だね、
でも君嶋くん、そんな彼女なら可愛くてしょうがないでしょ?」
「はい、ずっと傍に居て守ってあげたいって感じかな」
麻理さんは、一人で何でもできちゃうから、
憧れはあるけど、
守ってあげたいタイプじゃない気がする。
「彼女と頻繁に逢ってるの?」
「それが、就職活動中で忙しいから、なかなか逢えないんですよねー」
「そっか、ちょっと寂しいね。じゃあ今夜は私が代わりに慰めてあげるからね」
「麻理さん、そんな誘惑しないで下さいよ」
麻理さんは、それを笑って聞き流した。
地下鉄に乗って、栄の繁華街に繰り出す。
麻理さんは、
"よくこんな場所にある店を見つけたもんだ"
って感じの、ビルの谷間に落ちたお洒落な隠れバーに連れて行ってくれた。
ビルとビルの間の狭い路地の先に、地下に降りる階段があって、サビ留めに何度もペンキを塗り重ねた鉄製の手摺を頼りに階下に降りると、心許ない裸電球に照らされるアンティークな装飾が施されたドアが現れた。
ドアの中央には、ドライフラワーのブーケスワッグが飾られている。