カクテル
麻理さんが真鍮のレバーを握ってドアを開くと、
ドアに付けられた呼び鈴が来客を告げる。
「いらっしゃいませ」
マスターの渋い声が僕達を出迎えてくれた。
少し照明を落とした店内に、カウンター奥の棚に並べられたカラフルな酒瓶を棚の上部に取り付けられた間接照明がムード良く鮮やかに照らし出している。
店内は大衆居酒屋みたいな騒々しさは全くなくて、クラシックな音楽が流れる落ち着いた雰囲気の中、大人の男女がグラスを片手に愛を語り合っていた。
一枚板から切り出された年期の入ったカウンターの
一番奥の席に落ち着くと、
麻理さんはマスターに
「私はいつものお願いね。彼は、、」
横向きに僕の顔を見て、コクンって首を傾げる、
その仕草が可愛くて堪らない。
「何が良い?」
「こんな店初めてで、何も分からないから麻理さんに任せます」
「じゃあマスター、
彼をイメージして何か作ってあげて」
「かしこまりました」
マスターは、僕を一目見て顎に手を添えて考えると、手際よく材料を選び出していく。
シェーカーでシェイクするわけでなく、
ミキシンググラスに分量を計りながら注ぎ、マドラーで軽くかき混ぜる。
混ぜ終わるとロンググラスに移して、
「どうぞ、エメラルドスプリッツァーです」
グラスを指で挟んで僕の前に送り出した。
麻理さんは、このカクテルを初めて見るのだろうか、目を見開いた、
「マスター、このカクテルの言葉は何?」
「エメラルドスプリッツァーは"真実"ですよ」
「真実かぁ、なるほどー、イメージどおりだね」