カクテル

麻理さんは、出されたグラスに一口付けると、今度は急に黙り込んでしまった。

虚ろな目で、何かに思いを馳せる。


彼女は考えに耽る時、

やや上向きな目線で遠くを見つめ、
両肘を着いて、顔の前で伸ばした指を無造作に絡める、そんな癖があった。

しなやかな指が、まるで社交ダンスでも踊るかのように優雅に動く、
 
僕は、
その横顔と仕草にいつも心を奪われてしまう。 


やがて考えが纏まったのか、纏まらないのか、カウンターに顔を埋めて意識を無くしてしまった。


「マスター寝ちゃったみたいです」

マスターは大きな溜息を一つ吐くと、
彼女を横目に見ながら、小声で僕に話しかけてきた。

「今日は何かあったみたいですね。
麻理さんを家までお願いできますか?」

「ご迷惑をかけて、、すみません」

「いえ、私どもは大丈夫ですが、他のお客さんもみえますし、何より彼女が心配で、、」

僕達の親ぐらいの年齢だろうか、マスターはまるで娘を心配するように麻理さんを気遣った。


マスターは麻理さんの事をどこまで知ってるのだろうか、聞いてみたくなった。

「麻理さんは、こちらによく来られるんですか?」

「最初は、今話されてた彼氏と二人でお越しいただきました。でもニ回目以降は麻理さんお一人で、もう両手で足りないにぐらいですかね、今日みたいに週末の金曜日が殆どです、
いつも、カウンターの一番奥のその席で、私に取り留めのない話をしながらカクテルを二、三杯飲まれます」

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