カクテル

「罰ゲームは何をすればいいですか?」

「ちょっと待って、準備するから」

麻理さんは、そう言うとキッチンの対面カウンターの上にカクテルグラスを置いて、お酒を注いで椅子を並べる。

カウンターに置かれたキャンドルライトに火を灯すと部屋の照明を落として僕を座らせた。

頭の中でクエスチョンマークが渋滞している。

「圭悟、レッスンね。
バーで私に一目惚れした想定で口説いて」

また、難しいことを、、う〜ん



「一杯奢らせて貰えますか?」

「ありがとう、いただくわ」

「マスター、彼女にスクリュードライバーを」


「おぉ、圭悟いいじゃない、スクリュードライバーは飲みやすくて女性に人気だけど比較的アルコール度数が高いから"女殺し"の異名を持つわ、カクテル言葉は"あなたに心を奪われた"だね、一目惚れしたシーンにぴったり」

「奇跡の出会いに乾杯しましょう」

「うーん、ちょっとキザだけど、まあいっか。
 それでね、ナンパじゃないから男はべらべら喋らないし、女の子を質問攻めにしても駄目、一つだけ聞けるとしたら何を聞く?」


「今日は嬉しい酒かな、それとも淋しい酒?」

「うん、女の子は話したくなるね。いいよ、

 淋しい酒かな」

「僕でよかったら話を聞くよ、ここのホテルに泊まってるんだ、夜景がきれいな僕の部屋で飲み直さないか?」

麻理さんは目を見張り、僕のセリフに驚いた顔をした。

すぐに口元を緩めて、

「いいわよ、連れてってくれる?」


僕が手を差し伸べると、上から重ねて立ち上がった。

彼女の手を引いてベランダに出ると、夜更けの爽やかな風が麻理さんの髪を揺らす、見え隠れするうなじが艶やかで色っぽい。

「圭悟、キスして」

「誰かに見られますよ」

「じゃぁ、しゃがんで」

高校生みたいに、人の目を盗んで隠れてキスをするような、懐かしい感覚を覚えた。

今日は、僕を慈しむような優しいキスだった。

欲情を掻き立てるような激しいキスもあれば、こんな胸が締め付けられるような優しいキスも麻理さんは知っている。


麻理さんは場慣れしてる気がする、いつもこんな風に愛の駆け引きを楽しんでいるのだろうか。

「圭悟も少し大人になったね、なんか嬉しい」


まるで幼子の成長に眼を細める母親のような眼差しで僕を見つめる彼女は、月明かりに照らされて女神のように美しい、、

やっぱり麻理さんは素敵だ、、

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