カクテル

「そうだよ、なんかドキドキしない? 
 隠れて悪いことしてるみたいだよね」

またー、悪戯っぽい目で僕を見ないで下さい、
まぁいいか、麻理さんと一緒なら怖い気がしない。

「何処に行きますか?」

「うーん、映画が観たい」


化粧をして、短めのタイトスカートを履いた私服姿の麻理さんは、やっぱり格好良い。

並んで歩いていても、
すれ違う男性は皆、彼女を見て振り返る。

一緒に歩いている僕が、
不釣り合いに思えて恥ずかしく感じていた。

そんな僕の気持ちを慮ってか、
麻理さんは掴まった腕に、更に身体を擦り寄せて僕への愛情を表現してくれる。

「圭悟、大好き」

過ぎゆく男が振り返る度に、僕を見上げて口にした。


「麻理さんは、本当にモテるんですね、、」

「他の男なんてどうでもいいよ、私は圭悟に振り向いて欲しいだけだから」

そんな事言われたら、、迷うじゃないですか、


心が揺れている、、


誰もが憧れる女性を独り占めしているのに、僕は彼女に何も返してあげられない。


伏見駅の地下鉄を降りて直ぐの映画館に入った。

「麻理さん、この恋愛映画はどうかな」

この映画館では三作品が上映されていて、壁に貼られたポスターを指差して聞いてみた、

「なんでもいいよ、圭悟の横で観れれば、、」



麻理さんは、何でそんなに僕が好きなんだろう、

どうして僕はそれに応えてあげられないんだろう。


平日の昼前の映画館は、数人の客しかいなかった、

麻理さんは、これみよがしにイチャついている。


しかし、

映画のチョイスを誤った、2人の女の子が男を取り合うストーリーで、僕の腕に掴まってハンカチを目に押し当てる麻理さんがいる。
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