カクテル
うちの課の担当は、ホストコンピュータと端末を繋ぐ通信ソフトで、トラブルが発生した時は一番に疑われる箇所だった。
やがて社内便でグループ長である田中主任の元に
ダンプファイルが送られてくると、麻理さんは主任に呼ばれてファイルの解析を頼まれた。
端末にフロッピーディスクを入れると画面には16進数の羅列が一面に映し出された。
「麻理さん、こんなの見て何が分かるんですか?」
「これだけ見ても何も分からないよ、このプログラムリストと照らし合わせてじゃないと」
僕には暗号みたいに見えて、何が書かれているのかまったく理解できない。
「君嶋くん、画面の左端がメモリのアドレス、それより左がそのアドレス上のデータの内容ね」
麻理さんは、膝の上に広げたプログラムリストと画面を交互に見ながら、プログラムのログを探していく。
目を細めて画面を見つめる真剣な横顔が美しい。
細く薄く引いた口紅と涼しげな目元が好きで、
思わず見惚れてしまった。
「君嶋くん、プリンターの電源入れて!」
「は、はい」
ぼーっと麻理さんを見ていた僕はびっくりして、
慌ててプリンターの電源を入れた。
彼女がエンターキーを叩くと、直ぐにログが印字され始めた。
「ログが出たら私が持って行くから、君嶋くんは、先に会議室を取ってグループの皆んなを集めといてくれる」
「はい、分かりました、、すぐに」
田中主任を入れて6人のグループの全員がテーブルを囲んでプリントアウトされたログを覗き込む。
田中主任が一目見て口を開いた、
「端末側から、最後のレスポンスが帰ってないね」
岸さんがそれに応じて呟く、
「ホスト側は、レスポンス待ちのタイムアウトで回線を遮断かぁ」
「どうも、端末側に原因がありそうだね」