カクテル
9.カイピロスカ(明日への期待)
「マスター、お久しぶりです」
年が明けて松飾りがとれる頃、僕と麻理さんは久しぶりにマスターの店にいた。
「年末年始はどなたも忙しいですから、、
常連のお客さまもなかなかお見えになりません」
仕事帰りに訪れるこの様なバーは、年末年始は暇みたいだ、今日も僕ら以外の客は居なかった。
「麻理さん、君嶋さん、新年の最初の一杯は、私のお勧めで良いですか?」
「何ですか? 楽しみだなぁ」
マスターは、
冷蔵庫から冷えたウォッカを取り出し、
ロックグラスにウォッカ、賽の目に切ったライムと和三盆を入れてマッシャーで潰し、最後にアイスクラッシャーで砕いた氷を入れた。
「どうぞ、カイピロスカです。カクテル言葉は"明日への期待"。新しい年が始まりましたので、今年がいい年であります様にお二人にエールを送ります」
一口つけると、ライムの酸味が口の中に広がった、
そのライムの酸味を和三盆の甘さが巧みに抱き込んで、絶妙なバランスを保っている。
「マスター、癖になる味ですね」
僕が思った事を麻理さんが先に口にした。
「カイピロスカの虜になる人は多いですよ」
「へぇー、なんか分かる気がするなぁ」
そうだ、
麻理さんに話さなければいけない事があった。
「麻理さん、、話を聞いて貰えますか?」
「どうしたの?、あらたまっちゃって」
「麻由ちゃんが、
麻理さんとの事にうすうす気づいています。
だから、今までみたいな関係ではいられません」
「クリスマスの時の麻由ちゃんは挑戦的だったね、
私の眼を真っ直ぐに見て言ってた。
私は麻由ちゃんを悲しませる存在で、圭悟に排除して欲しいって事だよね」