カクテル
会議が終わり、皆が会議室を出て行くのを見計って、
「麻理さん、なんで僕に黙ってたんですか?
一言相談してくれても良かったのに」
「別に恋人じゃないんだから、わざわざ君嶋くんに相談する必要はないでしょ」
、、確かに僕には彼女がいて、麻理さんとは職場の同僚以外の何者でもないけど、何かにつけて誘惑する麻理さんが相思相愛の恋人のように思えてならなかった。
僕が情けない顔をしていたのか、麻理さんは僕のおでこを指で突っついて、
「そんな顔しないの、好きだよ圭悟」
そう言い残して、会議室を後にした。
次の日は金曜日で、
麻理さんに誘われてマスターの店で飲んでいた。
麻理さんがアメリカ行きの話をマスターに伝えると、マスターは複雑な表情を浮かべた。
旅立つ娘を思う父親の、嬉しさ半分寂しさ半分の心情が読み取れる。
「しばらくマスターとも会えなくなるね、
私が帰るまで頑張ってね」
「麻理さん、私もいい歳ですからいつまでやれるやら」
「そんな淋しい事言わないでよ、此処は私の帰る場所なんだからね、無くなったら迷子になっちゃうじゃない」
「そうですね2年ですか、、麻理さんが帰って来るまで頑張らなきゃ」
「ねぇ私の門出を祝して乾杯してよ、ほら圭悟、いつまで沈んだ顔してんの?」
「かんぱ〜い」
麻理さんは、僕の事をどう思っているのだろう。
あれだけ誘惑しておいて、、
もう吹っ切れたのだろうか、、
「麻理さん、いつ出発なんですか?」
「2週間後、6月末だよ、
そうだ圭悟、思い出作りにデートしよっか?
私、弁当作るから、何処か連れてってくれる」
マスターは優しく微笑んで聞いている。
「分かりました、いい場所探しておきます」