カクテル
階段を駆け降りると、
子供が悪戯をして怒られたように、肩を窄めて立ちすくむ麻理さんがいた。
近寄って両肩を掴む。
「もう、びっくりさせないでよー、心配するでしょ」
「圭悟に心配させたかったの」
「なんでですか?」
「私は、圭悟にとってどれくらいの存在なのかなって、すぐ近くに当たり前のように居た人が、突然居なくなる気持ちをわかってて欲しい。
淋しくて、切なくて、哀しい、、
圭悟の周りに今あるものを大切にね」
そんな事は彼女に言われなくても分かっている。
麻理さんだって、精一杯大切にしてきたつもりだった。
ん、、違う、麻由ちゃんのことだ、、
麻理さんは、
"平凡な日常の中にある大切な人を、決して疎かにしては駄目だよ"
って教えてくれた気がする。
感情が込み上げて我慢できなくなった。
もう麻理さん、、泣かせないでよ、、
こんなにも、か弱くて、
今にも僕の前から消えてしまいそうな彼女が愛しくて、涙が溢れた。
「圭悟、泣いてるの?」
このまま、彼女を連れ去りたい衝動に駆られる。
車に乗せて、遠くに走り去りたい、
やがて燃料が尽きて止まってしまったら、その街で二人でひっそりと暮らせばいい。
他に何もいらない、彼女さえいれば、、
麻由ちゃん許して、、
「麻理さん、、麻理さんが欲しい、、」
僕の意外なはずの言葉にも彼女はニッコリと微笑んだ、
「ははっ、私が言おうとしたのに、今の圭悟なら絶対に頷いてくれる自信があったんだ」