カクテル
「そうかー、たぶんそうだ」
閃いた麻理さんは、プログラムリストをめくって、ダンプファイル上の特定のメモリーを確認する。
「やっぱり、"1"のままだ。印字終了のフラグ(目印の旗)をクリアしてないんだ」
「判ったんですか? 麻理さん凄いです」
「でも、何でこんな単純なミスが今まで発覚しなかったんだろう?
そういえば、この◯◯鉄道は特注の改造が入ってるって言ってたよね」
「言ってました、今、角さんが調べている筈です」
「君嶋くん、もう一回会議するよ」
「はい」
やっぱり麻理さんは頼もしい。
もう一度調査結果を持ち寄って話し合った結果、特注の改造の仕方に問題があって、ある一定の条件下でこのトラブルが発生する事が判明した。
修正箇所を皆んなで確認して、パッチ(プログラムの書き換え)を入れる事になった。
田中主任は、その作業をまた麻理さんに依頼した。
既に時計は二十時を回っていた。
「君嶋くん、さすがに疲れたね、、肩揉んでくれる?」
えっ麻理さん、触っていいんですか?
少し緊張しながらも、彼女の後ろに回って肩を優しく揉んであげる。
「気持ちいいよ、君嶋くんも役に立ったじゃない」
シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「田中主任は、なんでまた麻理さんに頼んだんですかね?」
「嫌われてるのかなぁ」
麻理さんは悲しそうに呟いた。
「田中主任が麻理さんを嫌う理由なんて何も無いですよ、麻理さんが居ないと困るんだから」
主任は明日出張があるとかで、麻理さんに後を任せて帰ってしまった。
他のメンバーも、もう手伝える事がなく残っていてもしょうがないので、先に帰宅してもらった。