カクテル

「原因は分かったみたいだね」

最後まで残っていた課長が近づいてきて僕らに話しかけた、

「後はパッチ指示書を作ってFAXで流すだけです」

「それは良かった、私もそろそろ帰るけど、
 まだかかりそうかな」

「もう小一時間ぐらいだと思います」

「女の子だから、あんまり遅いと心配だからね」

さすが課長、麻理さんの事を心配している、
田中主任とは大違いだ。

「課長、僕が一緒に帰りますから大丈夫ですよ」

「そうか、じゃ君嶋くん芳崎さんを頼んだよ。
 送り狼にならないようにね、お先に」

課長はそう言うと、ビジネスバッグを片手にオフィスを後にした。

「麻理さん、送り狼って何ですか?」

「君嶋くんが親切に私を送ってくれると思ったら、逆に私を襲ったってこと」

「えー、僕はそんな事しないですよ!」

「ほーんとう?」
麻理さんは横目づかいに疑いの眼差しで僕を見た。


とうとう、会社内は僕と麻理さんの二人きりになってしまった。
誰も居なくなった所は照明が落とされて、僕達がいる場所だけ明るい、

舞台に上がった主役みたいで、妙な緊張感が漂っている。

「君嶋くん、さっさと片付けて私達も帰ろ」
「は、はい」

ソフトウェア修正指示書を作成して現地で待機していたSEにFAXで送る。
後は現地で対応してくれるはずだ。


「麻理さん、お疲れ様でした」
「うん、長かったー、やれやれだね」

「危ないから、家まで送ります」

「課長にタクシーチケット貰ったから大丈夫だよ、
それとも、今から私の家で打ち上げする?」

「えっ、麻理さん独り住まいですよね?」
「そうだよ」
「お酒の勢いで本当に襲っちゃうといけないから、やめときます」

「ははっ、私は別に構わないよ」

わざと言ってるのか、
僕がドキッとする事をサラッと言い放った。


「また今度、今日の打ち上げを兼ねて付き合います」

「そだね、今日はもう遅いし明日はまだ仕事だからね」

会社を出て、通りでタクシーを拾い麻理さんを乗せた。
「長い一日、お疲れ様でした」
「君嶋くんもお疲れ様、付き合ってくれてありがとう」

「おやすみなさい」
深々とお辞儀をして彼女を見送った。

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