弊社の副社長に口説かれています
『話にならないのはあんたの方よ! どうせ断るよう頼まれただけでしょ! 姉を出しなさいよ!』
陽葵が押しに弱いことなど知っている、だから直接話せば簡単に落ちると踏んでいるからこその連日の電話なのだ。史絵瑠側のビデオは変わらず画面はオンのままだが、スマートフォンは手に持っているのだろう、画面が激しく揺れているのは、怒りからか。
「いますよ、ひまり」
言って尚登もビデオをオンにし陽葵を映した。陽葵は一度もビデオ通話を使ったことはない、画面で史絵瑠と並ぶのが嫌だったからだ、だが今は二つの画面で並んでしまう、引きつる顔をなんとか笑顔にしようするが難しかった。
『お姉ちゃーん!』
史絵瑠の甘えた声にぞくりと背筋が凍る。
『──って、その人? 一緒に住んでるって……』
急に史絵瑠の声がしおらしく響いた、ん、と画面を見れば端に尚登が入り込んでいる、椅子を寄せすぐそばにいることに今更気づいた、体が触れあう近さだ。
「ふくしゃ……!」
思わず声を上げた陽葵の口を塞ごうとしたのだろう、尚登は陽葵の後頭部に手をかけ肩に押し当てた。そうだ、肩書きで呼ぶなと言われたと思い出したが、しかしいきなり名前で呼ぶなど無理だ、しかも突然抱きしめられ、陽葵の体が硬直する。
「どうも、高見沢です」
尚登は画面に向かってにこやかに挨拶をする。
『──へえ、まあ、かっこいいじゃん、お姉ちゃん、見る目あるね』
「どうも」
返事をしたのは尚登だ。
『交際はいつから?』
「いつからだっけ? そんな昔のこと忘れたな。住み始めたのは2か月前だけど」
すらすらと出てくる嘘に、陽葵はぎこちなくも頷くしかない。
『住んでるってことはぁ、結婚とか考えてるってことぉ?』
さきほどまでの攻撃的ものとは違い、なんとも粘着質な喋り方になった、画面の史絵瑠もずいぶん上から映したものとなり、上目遣いでこちらを見ている様子に媚びを感じる。
「近いうちにね。俺もいい年なんで、親からの押しもひどくて。あとはひまり次第だな」
にこやかな返事に陽葵の背に背中に冷たいものが流れる、そんな嘘はつくものではない。
『え~? いくつ~? そんなおじさんには見えないけどぉ』
「大学生からしてみたらおっさんでしょ」
質問には答えずにこやかに応じた、しかし史絵瑠は気にせず指で髪をクルクルと巻きながらなおも媚びた声で言う。
『えー、私は気にしなーい』
確かにと陽葵は内心思う、先日は父と言ってもいい男性と腕を組んで歩いていたのだ。
『お姉ちゃんよりぃ、私の方が、いい女だと思うけど、なぁ……』
ぺろりとわずかに舌で唇を舐めたのは、潤いを持たせ色気を出そうというのだろう。嘘でも交際しているという相手にする言動かと、二人揃って呆れた、それを正直に口に出したのは尚登だ。
「確かにいい女だな、性根の腐り具合が」
その言葉の意味は理解した、途端に史絵瑠の表情が憤怒に変わる。
『は!? 誰に言ってんの!? あんたこそ顔はよくても根性腐ってるわ!』
「お互い様なら罵りあいは不毛だからやめようか」
そんなことを笑顔で言う尚登は、本当に意地が悪いと陽葵は思った。
『お姉ちゃん! こんな人と付き合ってるなんて嘘でしょ!』
「なんで疑う?」
答えたのは尚登だ。
『お姉ちゃんがこんな人と付き合うはずないもの! お姉ちゃんにはもっと優しくて思いやりがあって、面倒見がよくて思慮深い人がお似合いだもの!』
「だってさ。さすがは姉妹、姉のことをよく判ってるねぇ」
それは陽葵に向けられた言葉だ。だが陽葵は首を横に振った、それは単に今受けた尚登の印象からかけ離れた人物像を言って言っただけであり、史絵瑠の本心ではないだろう。
「別れる?」
笑顔で聞かれたがそもそも付き合ってなどいない、ただ見上げて視線でそう訴えれば、史絵瑠からは見つめあい会話しているようにしか見えなかった。
『お姉ちゃん!』
史絵瑠が叫ぶ。
『目を覚まして! 私がお姉ちゃんを助けてあげる!』
助ける、そんな言葉が陽葵の鼓膜を叩く。
『その男に騙されてるんだよ! どんなによくても見た目で騙されちゃダメよ! 一緒に住んでるって言うなら、私も一緒に住んで、化けの皮はがしてやるから!』
ああ、結局そこに行き着くのか──陽葵はため息が出た。そうだ、史絵瑠は家から出たいのだ──史絵瑠が助けると言うなら、自分も助けなくては。
「うん、そう──」
そうしよう、そう言おうとした陽葵の顎に、尚登の手がかかる。
「はい?」
何をと思っている間に、陽葵の口を尚登は唇で塞いだ。え、という声すら塞がれる。
『ちょっと! 馬鹿じゃないの!? 邪魔するんじゃないわよ、色情狂!』
史絵瑠が口汚く罵る、尚登は軽く啄むようにして離れたが、しかし完全には離れないまま角度を変え再度重なる──何度かそんなことを繰り返した。
「ふ……ふくしゃちょ……!」
抵抗の声は尚登の口の中に吸い込まれてしまう、陽葵は拳を尚登の胸に当て押すが、離れる気配はないどころか顎の支えていた手が後頭部に回り完全に固定されてしまう。
「離……っ」
陽葵の声を封じるように舌が入ってきた、初めてのことに陽葵は戸惑う。しかもその合わさった唇はしっかり映るように顔もスマートフォンの位置も完ぺきだった。
陽葵が押しに弱いことなど知っている、だから直接話せば簡単に落ちると踏んでいるからこその連日の電話なのだ。史絵瑠側のビデオは変わらず画面はオンのままだが、スマートフォンは手に持っているのだろう、画面が激しく揺れているのは、怒りからか。
「いますよ、ひまり」
言って尚登もビデオをオンにし陽葵を映した。陽葵は一度もビデオ通話を使ったことはない、画面で史絵瑠と並ぶのが嫌だったからだ、だが今は二つの画面で並んでしまう、引きつる顔をなんとか笑顔にしようするが難しかった。
『お姉ちゃーん!』
史絵瑠の甘えた声にぞくりと背筋が凍る。
『──って、その人? 一緒に住んでるって……』
急に史絵瑠の声がしおらしく響いた、ん、と画面を見れば端に尚登が入り込んでいる、椅子を寄せすぐそばにいることに今更気づいた、体が触れあう近さだ。
「ふくしゃ……!」
思わず声を上げた陽葵の口を塞ごうとしたのだろう、尚登は陽葵の後頭部に手をかけ肩に押し当てた。そうだ、肩書きで呼ぶなと言われたと思い出したが、しかしいきなり名前で呼ぶなど無理だ、しかも突然抱きしめられ、陽葵の体が硬直する。
「どうも、高見沢です」
尚登は画面に向かってにこやかに挨拶をする。
『──へえ、まあ、かっこいいじゃん、お姉ちゃん、見る目あるね』
「どうも」
返事をしたのは尚登だ。
『交際はいつから?』
「いつからだっけ? そんな昔のこと忘れたな。住み始めたのは2か月前だけど」
すらすらと出てくる嘘に、陽葵はぎこちなくも頷くしかない。
『住んでるってことはぁ、結婚とか考えてるってことぉ?』
さきほどまでの攻撃的ものとは違い、なんとも粘着質な喋り方になった、画面の史絵瑠もずいぶん上から映したものとなり、上目遣いでこちらを見ている様子に媚びを感じる。
「近いうちにね。俺もいい年なんで、親からの押しもひどくて。あとはひまり次第だな」
にこやかな返事に陽葵の背に背中に冷たいものが流れる、そんな嘘はつくものではない。
『え~? いくつ~? そんなおじさんには見えないけどぉ』
「大学生からしてみたらおっさんでしょ」
質問には答えずにこやかに応じた、しかし史絵瑠は気にせず指で髪をクルクルと巻きながらなおも媚びた声で言う。
『えー、私は気にしなーい』
確かにと陽葵は内心思う、先日は父と言ってもいい男性と腕を組んで歩いていたのだ。
『お姉ちゃんよりぃ、私の方が、いい女だと思うけど、なぁ……』
ぺろりとわずかに舌で唇を舐めたのは、潤いを持たせ色気を出そうというのだろう。嘘でも交際しているという相手にする言動かと、二人揃って呆れた、それを正直に口に出したのは尚登だ。
「確かにいい女だな、性根の腐り具合が」
その言葉の意味は理解した、途端に史絵瑠の表情が憤怒に変わる。
『は!? 誰に言ってんの!? あんたこそ顔はよくても根性腐ってるわ!』
「お互い様なら罵りあいは不毛だからやめようか」
そんなことを笑顔で言う尚登は、本当に意地が悪いと陽葵は思った。
『お姉ちゃん! こんな人と付き合ってるなんて嘘でしょ!』
「なんで疑う?」
答えたのは尚登だ。
『お姉ちゃんがこんな人と付き合うはずないもの! お姉ちゃんにはもっと優しくて思いやりがあって、面倒見がよくて思慮深い人がお似合いだもの!』
「だってさ。さすがは姉妹、姉のことをよく判ってるねぇ」
それは陽葵に向けられた言葉だ。だが陽葵は首を横に振った、それは単に今受けた尚登の印象からかけ離れた人物像を言って言っただけであり、史絵瑠の本心ではないだろう。
「別れる?」
笑顔で聞かれたがそもそも付き合ってなどいない、ただ見上げて視線でそう訴えれば、史絵瑠からは見つめあい会話しているようにしか見えなかった。
『お姉ちゃん!』
史絵瑠が叫ぶ。
『目を覚まして! 私がお姉ちゃんを助けてあげる!』
助ける、そんな言葉が陽葵の鼓膜を叩く。
『その男に騙されてるんだよ! どんなによくても見た目で騙されちゃダメよ! 一緒に住んでるって言うなら、私も一緒に住んで、化けの皮はがしてやるから!』
ああ、結局そこに行き着くのか──陽葵はため息が出た。そうだ、史絵瑠は家から出たいのだ──史絵瑠が助けると言うなら、自分も助けなくては。
「うん、そう──」
そうしよう、そう言おうとした陽葵の顎に、尚登の手がかかる。
「はい?」
何をと思っている間に、陽葵の口を尚登は唇で塞いだ。え、という声すら塞がれる。
『ちょっと! 馬鹿じゃないの!? 邪魔するんじゃないわよ、色情狂!』
史絵瑠が口汚く罵る、尚登は軽く啄むようにして離れたが、しかし完全には離れないまま角度を変え再度重なる──何度かそんなことを繰り返した。
「ふ……ふくしゃちょ……!」
抵抗の声は尚登の口の中に吸い込まれてしまう、陽葵は拳を尚登の胸に当て押すが、離れる気配はないどころか顎の支えていた手が後頭部に回り完全に固定されてしまう。
「離……っ」
陽葵の声を封じるように舌が入ってきた、初めてのことに陽葵は戸惑う。しかもその合わさった唇はしっかり映るように顔もスマートフォンの位置も完ぺきだった。