弊社の副社長に口説かれています
☆
食事が終わり店を出れば、尚登が提案した。
「ちょっとデートがてらブラブラするか」
横浜に本社がある会社にいながら、横浜の散策などしたとこはなかった。
「それもいいのですが、私としては食材の買い出しをしたいです」
この近くに大きなパックがウリのスーパーがあるため、そこへ行こうと思っていたことを優先したかった。陽葵は時折冷凍食品目当てに買いに来る店だ。尚登は陽葵の提案を受け入れ、陽葵の案内でその店に向かった。
「夕飯何にする? って昼飯食ったばっかで、特に食べたいものもねえなあ」
言いながら尚登は精肉コーナーを物色している、ビールも2杯も飲んでいたのだ、確かに腹は満たされている。
「あ、ボロネーゼにしよう。使うなら牛挽き肉がいいねえ~」
唐突に思いつき、ひき肉のパックの選別を始める。
「え、副……尚登くんが作ってくれるんですか?」
「おうよ。その辺は担当制にするか、朝担、夜担で決めたほうが楽だな。他の家事も含めて」
尚登はひき肉のパックを見比べながら言う、量もさることながら、色合いや脂身の多さも気になる所だ。
「意外です、ふ……尚登くんが料理するなんて」
「そうか? ああまあ、確かに自宅じゃやりようがないな」
母が家事を率先してやる上、家政婦までいるのだ。
「アメリカじゃほぼ一人暮らしだったから慣れっこだぜ」
高校に通っている間はホストファミリーの世話になっていた。父が頼んだホストファミリーだ、それなりの家柄で3人のハウスキーパーがいる邸宅だった。それはそれでありがたかったが窮屈さはあり、大学に入ればとても通える距離ではないと、始めは寮、それからアパートを借りて一人暮らしを始めた。丸8年の家事のキャリアは伊達ではない。
「バラ肉も買っとくか……って、陽葵んちの冷蔵庫、そんなに大きくなかったな」
「はい、一人暮らしではそうは困っていませんけど」
それでももう少し大きくてもよかったかなとは思っていた。やはり平日の労働終わりからの買い物はきつい、自宅が駅から近いのはありがたいが、逆に途中に買い物できるスーパーもないからだ。そのため休日にまとめ買いをしておくことが多いが冷蔵庫の容量を考えると冷蔵、冷凍品はそう多くは買えない、ちょっとした二律背反だ。
「まあ小さめのパックにしとくか。あとは要るのはトマトの水煮と」
「それはパックのがあります」
常温で日持ちするものは買い貯めがあった。
「セロリは?」
「それはさすがにないですね、取ってきます」
野菜は入り口付近だ、戻って取りに行き、ついでに目に入ったブロッコリーも手に戻る。
「根菜はあったな、パスタはなんかあんの?」
「普通のスパゲティでよろしければ」
「おお、合格、合格!」
ボロネーゼなら太めの麵のほうが合うが、家庭料理だ、気にならない。
「赤ワインは?」
「料理用のがあります」
「すげーじゃん、それで足りるかな」
「でも使いかけで、残量は不明です」
「そっか、じゃあ買っていくか、余れば飲めばいいし。あ、チーズもパルミジャーノチーズがいいから、それも合わせて別の店に買いに行こう」
さすがにワインもパルミジャーノチーズはこのスーパーにはなさそうだ、それらは並びにある別のスーパーに寄り道して買い、そこからは海方面へまっすぐ進めば家に着く。
買ってきたものを冷蔵庫に片付ける作業を二人で行えば仲睦まじくも見える。
「あー、ワイン、飲みてー」
フルボトルの赤ワインをまじまじと見つめながら尚登が言う。
「やめてください、これからベッドも届くのに」
酔っぱらって対応なんかしてほしくないと訴えれば尚登は納得する。
「それもそうか。とりあえず茶でも飲んで……って、ソファーもないんだな、この家。寛げねえ」
ほっといてください陽葵は内心思う、必要だと思ったことがなかった。
「いつもはテレビ観る時はどうしてんの? フローリングじゃ直には座らねえよな」
座布団もなければ、ラグすらない。
「ベッドか、ダイニングの椅子です」
定位置はダイニングの椅子だ。
「なるほどねぇ。ソファーもついでに買えばよかったな、まあ、それこそうちにあんの送ってもらうか」
言いながらスマートフォンのホームボタンを押す、二世帯住宅のかつては尚登の親世代が使っていた2階の家具は使われていないものだ、使わせてほしいといえば簡単に了承はもらえるだろう。
「つかさぁ、敬語もやめろよ」
尚登がスマートフォンを操作しながら言うが、陽葵は顔を引きつらせて反応する。
「でも……仕事中に馴れ馴れしくなってもいけないですし」
適当な言い訳で逃れようとするが、尚登はスマートフォンに文字を打ち込みながら答える。
「嫁になるっていうんだから多少は多めに見てくれんだろ。対外的には山本さんがいるんだし、陽葵は俺の相手だけしてればいい」
「そんな、完全に公私混同……」
「何をいまさら。陽葵を俺んとこにつけてもらった時点で混同しまくりだろ」
「……自覚があるなら経理課に戻してくださいよ」
陽葵は小さな声で訴えた、秘書など本当に柄ではない。
食事が終わり店を出れば、尚登が提案した。
「ちょっとデートがてらブラブラするか」
横浜に本社がある会社にいながら、横浜の散策などしたとこはなかった。
「それもいいのですが、私としては食材の買い出しをしたいです」
この近くに大きなパックがウリのスーパーがあるため、そこへ行こうと思っていたことを優先したかった。陽葵は時折冷凍食品目当てに買いに来る店だ。尚登は陽葵の提案を受け入れ、陽葵の案内でその店に向かった。
「夕飯何にする? って昼飯食ったばっかで、特に食べたいものもねえなあ」
言いながら尚登は精肉コーナーを物色している、ビールも2杯も飲んでいたのだ、確かに腹は満たされている。
「あ、ボロネーゼにしよう。使うなら牛挽き肉がいいねえ~」
唐突に思いつき、ひき肉のパックの選別を始める。
「え、副……尚登くんが作ってくれるんですか?」
「おうよ。その辺は担当制にするか、朝担、夜担で決めたほうが楽だな。他の家事も含めて」
尚登はひき肉のパックを見比べながら言う、量もさることながら、色合いや脂身の多さも気になる所だ。
「意外です、ふ……尚登くんが料理するなんて」
「そうか? ああまあ、確かに自宅じゃやりようがないな」
母が家事を率先してやる上、家政婦までいるのだ。
「アメリカじゃほぼ一人暮らしだったから慣れっこだぜ」
高校に通っている間はホストファミリーの世話になっていた。父が頼んだホストファミリーだ、それなりの家柄で3人のハウスキーパーがいる邸宅だった。それはそれでありがたかったが窮屈さはあり、大学に入ればとても通える距離ではないと、始めは寮、それからアパートを借りて一人暮らしを始めた。丸8年の家事のキャリアは伊達ではない。
「バラ肉も買っとくか……って、陽葵んちの冷蔵庫、そんなに大きくなかったな」
「はい、一人暮らしではそうは困っていませんけど」
それでももう少し大きくてもよかったかなとは思っていた。やはり平日の労働終わりからの買い物はきつい、自宅が駅から近いのはありがたいが、逆に途中に買い物できるスーパーもないからだ。そのため休日にまとめ買いをしておくことが多いが冷蔵庫の容量を考えると冷蔵、冷凍品はそう多くは買えない、ちょっとした二律背反だ。
「まあ小さめのパックにしとくか。あとは要るのはトマトの水煮と」
「それはパックのがあります」
常温で日持ちするものは買い貯めがあった。
「セロリは?」
「それはさすがにないですね、取ってきます」
野菜は入り口付近だ、戻って取りに行き、ついでに目に入ったブロッコリーも手に戻る。
「根菜はあったな、パスタはなんかあんの?」
「普通のスパゲティでよろしければ」
「おお、合格、合格!」
ボロネーゼなら太めの麵のほうが合うが、家庭料理だ、気にならない。
「赤ワインは?」
「料理用のがあります」
「すげーじゃん、それで足りるかな」
「でも使いかけで、残量は不明です」
「そっか、じゃあ買っていくか、余れば飲めばいいし。あ、チーズもパルミジャーノチーズがいいから、それも合わせて別の店に買いに行こう」
さすがにワインもパルミジャーノチーズはこのスーパーにはなさそうだ、それらは並びにある別のスーパーに寄り道して買い、そこからは海方面へまっすぐ進めば家に着く。
買ってきたものを冷蔵庫に片付ける作業を二人で行えば仲睦まじくも見える。
「あー、ワイン、飲みてー」
フルボトルの赤ワインをまじまじと見つめながら尚登が言う。
「やめてください、これからベッドも届くのに」
酔っぱらって対応なんかしてほしくないと訴えれば尚登は納得する。
「それもそうか。とりあえず茶でも飲んで……って、ソファーもないんだな、この家。寛げねえ」
ほっといてください陽葵は内心思う、必要だと思ったことがなかった。
「いつもはテレビ観る時はどうしてんの? フローリングじゃ直には座らねえよな」
座布団もなければ、ラグすらない。
「ベッドか、ダイニングの椅子です」
定位置はダイニングの椅子だ。
「なるほどねぇ。ソファーもついでに買えばよかったな、まあ、それこそうちにあんの送ってもらうか」
言いながらスマートフォンのホームボタンを押す、二世帯住宅のかつては尚登の親世代が使っていた2階の家具は使われていないものだ、使わせてほしいといえば簡単に了承はもらえるだろう。
「つかさぁ、敬語もやめろよ」
尚登がスマートフォンを操作しながら言うが、陽葵は顔を引きつらせて反応する。
「でも……仕事中に馴れ馴れしくなってもいけないですし」
適当な言い訳で逃れようとするが、尚登はスマートフォンに文字を打ち込みながら答える。
「嫁になるっていうんだから多少は多めに見てくれんだろ。対外的には山本さんがいるんだし、陽葵は俺の相手だけしてればいい」
「そんな、完全に公私混同……」
「何をいまさら。陽葵を俺んとこにつけてもらった時点で混同しまくりだろ」
「……自覚があるなら経理課に戻してくださいよ」
陽葵は小さな声で訴えた、秘書など本当に柄ではない。