弊社の副社長に口説かれています
駐車場へ行けば尚登が乗るはずの車には仁志に付いている秘書の男が待っていた、だが尚登はそれを断り笑顔で運転席に乗り込みエンジンをかけてしまう。当然仁志は怒るが、尚登ははいはいと適当な返事だけをして陽葵にも乗るよう促しさっさと発進させてしまう。
「道は判るの?」
助手席に乗った陽葵が聞いた、運転し慣れていなければ道も判らないのでは──現に自分はたどり着けそうにない。
「だいじょぶ、だいじょぶ、何度か行ってるし」
だが車はいつものルートには入らなかった。山本ならば首都高速横羽線のみなとみらい料金所を使うのが、いきなりワールドポーターズなどがある新港地区へと進んだ。本当に大丈夫かと不安になるがそもそも道を知らない陽葵は口出しもできない。
左手に山下公園を見ながら進み、新山下料金所から湾岸線に乗りベイブリッジに入れば、陽葵は「うわぁ」と声を上げていた。
ベイブリッジから見える景色は港町横浜を如実に示している、眼下に広がる海と、ガントリークレーンが立ち並ぶ港の風情が見渡せる見晴らしのいい高架の道路に、尚登は本当にドライブを楽しんでいるのだろう。背後を見れば末吉の本社ビルも見えるみなとみらい地区も見える特等席だ。
陽葵も大雑把な地図ならば把握している、車が北に向かい出したことが判りほっとした。車は羽田空港も通過する、ちょうど飛行機が離陸するところが見え陽葵はわくわくとそれを見ていた。不謹慎だと思いながらも心が弾むのは止められなかった、なにもかもが新鮮だった、こんな風に男性と車で出かけたことすらない。
「ああ、マジ、このままどっか行きてぇなあ、天気もいいし、仕事する気にならなくね?」
陽葵の心を読んだように尚登が言う、確かにと思うが陽葵は心を鬼にして笑顔で答える。
「駄目でしょ、お相手も待ってるし、車は社用車だし」
車が一般道に降りて間もなくだった、左折しようとすると信号のない横断歩道に向かって子どもが駆け込んでくる、尚登はもちろん止めたが急ブレーキになってしまう。
「おっと、悪い」
すぐさま陽葵の体が前に倒れないよう手で支えていた、シートベルトもあり、思い切り前のめりになるようなスピードではなかったがそんな気遣いすら陽葵には嬉しくなってしまう。だがその心を隠して言葉を発する。
「やっぱり尚登くんの運転はやめよう」
「えー、注意してたろー」
「でも私の心臓によくないもん」
「安全運転しまーす」
「尚登くんが気を付けてても、今みたく飛び出す子もいるかもだし」
子どもを追いかけてきた母親らしき女性が懸命に頭を下げ謝っていた、尚登はどうぞと横断を勧めるが母子は渡るつもりはなかったらしい、子供の手を引き来た道を戻っていく。
「まあなんかありゃ会社を辞める理由にちょうどいいんだけどな」
物騒なことを言って車をゆっくりと発進させる。
「誰かを巻き込むのはもっての外」
単独事故ならまだしも、相手がいては怪我がなくても大事故だ、陽葵の言葉に尚登は確かにと頷いた。
「じゃあ、やっぱセクハラで」
陽葵の足に手を伸ばし掴んだ、陽葵は容赦なくその手の甲を叩く。
「私に対してならセクハラにならないし、他の人にするなら嫌いになるからねっ」
「他の女に興味ねえなあ」
そういって両手でハンドルを握る尚登にほっとする、見た目に反して意外と硬派なのだと勝手に感心してしまう。
「道は判るの?」
助手席に乗った陽葵が聞いた、運転し慣れていなければ道も判らないのでは──現に自分はたどり着けそうにない。
「だいじょぶ、だいじょぶ、何度か行ってるし」
だが車はいつものルートには入らなかった。山本ならば首都高速横羽線のみなとみらい料金所を使うのが、いきなりワールドポーターズなどがある新港地区へと進んだ。本当に大丈夫かと不安になるがそもそも道を知らない陽葵は口出しもできない。
左手に山下公園を見ながら進み、新山下料金所から湾岸線に乗りベイブリッジに入れば、陽葵は「うわぁ」と声を上げていた。
ベイブリッジから見える景色は港町横浜を如実に示している、眼下に広がる海と、ガントリークレーンが立ち並ぶ港の風情が見渡せる見晴らしのいい高架の道路に、尚登は本当にドライブを楽しんでいるのだろう。背後を見れば末吉の本社ビルも見えるみなとみらい地区も見える特等席だ。
陽葵も大雑把な地図ならば把握している、車が北に向かい出したことが判りほっとした。車は羽田空港も通過する、ちょうど飛行機が離陸するところが見え陽葵はわくわくとそれを見ていた。不謹慎だと思いながらも心が弾むのは止められなかった、なにもかもが新鮮だった、こんな風に男性と車で出かけたことすらない。
「ああ、マジ、このままどっか行きてぇなあ、天気もいいし、仕事する気にならなくね?」
陽葵の心を読んだように尚登が言う、確かにと思うが陽葵は心を鬼にして笑顔で答える。
「駄目でしょ、お相手も待ってるし、車は社用車だし」
車が一般道に降りて間もなくだった、左折しようとすると信号のない横断歩道に向かって子どもが駆け込んでくる、尚登はもちろん止めたが急ブレーキになってしまう。
「おっと、悪い」
すぐさま陽葵の体が前に倒れないよう手で支えていた、シートベルトもあり、思い切り前のめりになるようなスピードではなかったがそんな気遣いすら陽葵には嬉しくなってしまう。だがその心を隠して言葉を発する。
「やっぱり尚登くんの運転はやめよう」
「えー、注意してたろー」
「でも私の心臓によくないもん」
「安全運転しまーす」
「尚登くんが気を付けてても、今みたく飛び出す子もいるかもだし」
子どもを追いかけてきた母親らしき女性が懸命に頭を下げ謝っていた、尚登はどうぞと横断を勧めるが母子は渡るつもりはなかったらしい、子供の手を引き来た道を戻っていく。
「まあなんかありゃ会社を辞める理由にちょうどいいんだけどな」
物騒なことを言って車をゆっくりと発進させる。
「誰かを巻き込むのはもっての外」
単独事故ならまだしも、相手がいては怪我がなくても大事故だ、陽葵の言葉に尚登は確かにと頷いた。
「じゃあ、やっぱセクハラで」
陽葵の足に手を伸ばし掴んだ、陽葵は容赦なくその手の甲を叩く。
「私に対してならセクハラにならないし、他の人にするなら嫌いになるからねっ」
「他の女に興味ねえなあ」
そういって両手でハンドルを握る尚登にほっとする、見た目に反して意外と硬派なのだと勝手に感心してしまう。