弊社の副社長に口説かれています
「それも高校の3年間だけ」
その後は別々の大学に進み関係は終わっている。最初のうちこそ連絡は取りあっていたが、高校があったシカゴと大学があるボストンでは距離がありすぎた。自然消滅といえば聞こえはいいが、実際にはジェニファーに新たな恋人ができたのが原因だ。
「そんなジェニーに、会いたかったなんて今更恋人面して来られてもねえ」
その言葉はジェニファーに向けられた言葉だった、日本語だったがジェニファーはきゅっと唇を結んでから言葉を発する。
「判ってる、でも私は今でも」
多少英語訛りは感じるが日本語で語り出した時、ジェニファーは初めて陽葵に気づいたように大きく目を見開いて陽葵を見た。
意志が強そうな大きな瞳と合い、陽葵は怖気づく。金髪の美女で欧米人らしく体格もいいのは尚登に引けを取らない、こんな人こそ尚登のそばにいるのがふさわしいのでは──そんな気持ちが一瞬過ぎるが、尚登の言動からも逆に尚登を守らねばという気持ちになった。いつも守ってくれる尚登を今度は自分が──ジェニファーの睨むような視線に竦みながらも尚登の腰に腕を回し、ジェニファーを下目使いに見上げる。
「あのっ、えっと、私は……っ、I am his lover……!」
拙い英語で伝えれば尚登は微笑み陽葵を抱きしめた、対してジェニファーは腕を組み陽葵を見下すように見る。
「意味、判って言ってる?」
ジェニファーの日本語での返事に、拙い英語で言う必要はなかったのだと恥ずかしさが増した。尚登にしがみつき返答に困っていると、
「間違いねえよ、俺の嫁だ」
頭上で尚登の声がする、はっきりと言われ恥ずかしくなる、まだ妻ではないなどと言い訳ができる状況でもなかった。
ジェニファーは悲し気な瞳で唇を噛んだ。かつての恋人はすでに心に決めた相手がいる、10年の月日など埋められると思っていたのはジェニファーだけだった──なぜ大喜びで出迎えてもらえると思っていたのか。
「──I came to see you」(私、あなたに逢いに来たの)
「You were here for guidance?」(指導に来たんじゃねえの?)
「Yeah、but……」(そうなんだけど)
「In any case, it’s hard to do it with Jenny. I’ll get someone else to do it, and you can go home」(いずれにしてもジェニー相手じゃやりたくねえ、他の人に代えてもらうから帰っていい)
「But……」(でも)
「まあさすがにとんぼ返りは可哀そうか、一日くらい観光に付き合ってやる」
日本語で言えばジェニファーの顔がぱっと明るくなる。
「陽葵も一緒に。明日、出かけるか」
陽葵の頭を抱き寄せての言葉に、ジェニファーはすぐにむっとした。とっととアメリカに帰れと言われるのもだが、見ず知らずの女も一緒など冗談ではないと思う。
陽葵もこんなにも敵意むき出しのジェニファーと行動を共にするのは嫌だと思うが、逆言えば尚登と二人きりにもしたくない。
「うん、でもそうやって休む理由ばっかり考えちゃダメだよ」
仲の良さを見せつけるように陽葵が笑顔で答えれば、ジェニファーは「No way」と呟く。ありえないのはあなただ、陽葵は尚登の腕をしっかりと握り、まっすぐジェニファーを見つめ伝えた。
「私はあなたと尚登くんとの過去に興味はありません、今、彼のそばにいるのは私です」
挑発的なことを言ってしまったが怒り出すだろうかと不安になりながらもジェニファーを見れば、不機嫌なまま腕組みをし、口を開こうとしたが尚登が言葉を添えた。
「That’s right. I love this girl, now.」
陽葵の手を握り返しながら言葉に、ラブという単語が耳の奥に届き陽葵は恥ずかしくなる、こんなにも普通に使う単語なのだと思い知らされた。
ジェニファーは頭を乱暴に搔きながら大きなため息を吐く。
「Oh yeah, that’s good luck to you」(ああ、そう。それはお幸せに)
祝福の言葉に陽葵は笑顔を作りかけたが、
「But……I’m not backing down」(でも、私は諦めない)
陽葵は何を言われたのか判らなかった、尚登は、は、と笑い陽葵を抱き寄せる。
「OK, just do what you want to do」(どうぞご勝手に)
単語を追うだけで精いっぱいの陽葵には会話の内容は理解できなかった。
「10年も思われていたのはありがたいが、相当手遅れだわ」
日本語での言葉にジェニファーは唇を噛み締め、陽葵はほっとする。
「あ、このマンションも彼女のもんだから泊まろうたってそうはいかねえからな。とりあえずこの足でホテルでも探しに行くか」
観光地だ、近くにはビジネスホテルから高級ホテルまで揃っている。地の利を生かし探してやろうと尚登が申し出れば、ジェニファーは面倒そうにため息を吐き答える。
「I can handle that much by myself」(それくらい自分でできるわ)
その女も一緒かと思えば、腹が立つのが先に立った。
「そっか、じゃあ、おやすみ」
尚登は冷たく言い陽葵の肩を抱き歩き出す、ジェニファーとはすれ違う形になる、そのすれ違いざまにジェニファーは声を上げる。
「When do you start training?」(トレーニングはいつから始めるの?)
ジェニファーはまっすぐ前方を見つめたまま聞いた、陽葵があまり英語が得意ではないと見抜き、尚登と会話できる方法で話しかけるのは意地だ。
その後は別々の大学に進み関係は終わっている。最初のうちこそ連絡は取りあっていたが、高校があったシカゴと大学があるボストンでは距離がありすぎた。自然消滅といえば聞こえはいいが、実際にはジェニファーに新たな恋人ができたのが原因だ。
「そんなジェニーに、会いたかったなんて今更恋人面して来られてもねえ」
その言葉はジェニファーに向けられた言葉だった、日本語だったがジェニファーはきゅっと唇を結んでから言葉を発する。
「判ってる、でも私は今でも」
多少英語訛りは感じるが日本語で語り出した時、ジェニファーは初めて陽葵に気づいたように大きく目を見開いて陽葵を見た。
意志が強そうな大きな瞳と合い、陽葵は怖気づく。金髪の美女で欧米人らしく体格もいいのは尚登に引けを取らない、こんな人こそ尚登のそばにいるのがふさわしいのでは──そんな気持ちが一瞬過ぎるが、尚登の言動からも逆に尚登を守らねばという気持ちになった。いつも守ってくれる尚登を今度は自分が──ジェニファーの睨むような視線に竦みながらも尚登の腰に腕を回し、ジェニファーを下目使いに見上げる。
「あのっ、えっと、私は……っ、I am his lover……!」
拙い英語で伝えれば尚登は微笑み陽葵を抱きしめた、対してジェニファーは腕を組み陽葵を見下すように見る。
「意味、判って言ってる?」
ジェニファーの日本語での返事に、拙い英語で言う必要はなかったのだと恥ずかしさが増した。尚登にしがみつき返答に困っていると、
「間違いねえよ、俺の嫁だ」
頭上で尚登の声がする、はっきりと言われ恥ずかしくなる、まだ妻ではないなどと言い訳ができる状況でもなかった。
ジェニファーは悲し気な瞳で唇を噛んだ。かつての恋人はすでに心に決めた相手がいる、10年の月日など埋められると思っていたのはジェニファーだけだった──なぜ大喜びで出迎えてもらえると思っていたのか。
「──I came to see you」(私、あなたに逢いに来たの)
「You were here for guidance?」(指導に来たんじゃねえの?)
「Yeah、but……」(そうなんだけど)
「In any case, it’s hard to do it with Jenny. I’ll get someone else to do it, and you can go home」(いずれにしてもジェニー相手じゃやりたくねえ、他の人に代えてもらうから帰っていい)
「But……」(でも)
「まあさすがにとんぼ返りは可哀そうか、一日くらい観光に付き合ってやる」
日本語で言えばジェニファーの顔がぱっと明るくなる。
「陽葵も一緒に。明日、出かけるか」
陽葵の頭を抱き寄せての言葉に、ジェニファーはすぐにむっとした。とっととアメリカに帰れと言われるのもだが、見ず知らずの女も一緒など冗談ではないと思う。
陽葵もこんなにも敵意むき出しのジェニファーと行動を共にするのは嫌だと思うが、逆言えば尚登と二人きりにもしたくない。
「うん、でもそうやって休む理由ばっかり考えちゃダメだよ」
仲の良さを見せつけるように陽葵が笑顔で答えれば、ジェニファーは「No way」と呟く。ありえないのはあなただ、陽葵は尚登の腕をしっかりと握り、まっすぐジェニファーを見つめ伝えた。
「私はあなたと尚登くんとの過去に興味はありません、今、彼のそばにいるのは私です」
挑発的なことを言ってしまったが怒り出すだろうかと不安になりながらもジェニファーを見れば、不機嫌なまま腕組みをし、口を開こうとしたが尚登が言葉を添えた。
「That’s right. I love this girl, now.」
陽葵の手を握り返しながら言葉に、ラブという単語が耳の奥に届き陽葵は恥ずかしくなる、こんなにも普通に使う単語なのだと思い知らされた。
ジェニファーは頭を乱暴に搔きながら大きなため息を吐く。
「Oh yeah, that’s good luck to you」(ああ、そう。それはお幸せに)
祝福の言葉に陽葵は笑顔を作りかけたが、
「But……I’m not backing down」(でも、私は諦めない)
陽葵は何を言われたのか判らなかった、尚登は、は、と笑い陽葵を抱き寄せる。
「OK, just do what you want to do」(どうぞご勝手に)
単語を追うだけで精いっぱいの陽葵には会話の内容は理解できなかった。
「10年も思われていたのはありがたいが、相当手遅れだわ」
日本語での言葉にジェニファーは唇を噛み締め、陽葵はほっとする。
「あ、このマンションも彼女のもんだから泊まろうたってそうはいかねえからな。とりあえずこの足でホテルでも探しに行くか」
観光地だ、近くにはビジネスホテルから高級ホテルまで揃っている。地の利を生かし探してやろうと尚登が申し出れば、ジェニファーは面倒そうにため息を吐き答える。
「I can handle that much by myself」(それくらい自分でできるわ)
その女も一緒かと思えば、腹が立つのが先に立った。
「そっか、じゃあ、おやすみ」
尚登は冷たく言い陽葵の肩を抱き歩き出す、ジェニファーとはすれ違う形になる、そのすれ違いざまにジェニファーは声を上げる。
「When do you start training?」(トレーニングはいつから始めるの?)
ジェニファーはまっすぐ前方を見つめたまま聞いた、陽葵があまり英語が得意ではないと見抜き、尚登と会話できる方法で話しかけるのは意地だ。