私を包む,不器用で甘い溺愛。
「……ねえ榛名くん,どうして私だけ呼び捨てと敬語を混ぜるの?」
ゆったりと,少しじんわり熱いだけの空間では,そんな話しも出来てしまう。
榛名くんは私をじっと見て
「嫌ですか?」
とまず聞き返してきた。
私も思わず,うーんと考え込んでしまう。
「何て言うか,ううん,そうゆうんじゃないの。ただ,どっちかにしてくれないかなって。気になっちゃうから」
「そうですか,でもこれが一番いいので,俺は変えません」
目を伏せた榛名くんは,ミートボールを口に含んで,戸惑いを隠すようにんまっと呟いた。
「どうして?」
それでも私が尋ねると,諦めたように箸を置く。
そんなにいじわるな質問をしたかしら,私……
「図ってるんです,距離を。図って,保ってるんです」
困らせたかと思う質問にも,榛名くんはため息1つで答えてくれた。
だけど……どうしてそんなことするんだろう。
後輩だけど,私はもうとっくに仲良くなれてるんだと思ってた。
こんなによくしてくれるのに,どうして。
……どうして,胸が痛むんだろう。
どこかぼんやりと,私は空を眺めた。
そんな私を,榛名くんは静かに笑って。
榛名くんもまた,静かに綺麗なお弁当を食べ進めた。