私を包む,不器用で甘い溺愛。
言葉にするなら,そう。

多分,こなつちゃんは……

榛名くんに復縁を迫っていた?

と,いうこと……?



「えっ……と。2人はその……こなつちゃんは,榛名くんの元カノさんだったって,こと……だよね……? 私,しらなくて……邪魔して,ごめんなさい……!!!」



そんなつもりじゃなかったの……!

改めて去ろうとした私の目に,意味が分からないとぽかんとしたこなつちゃんの顔が映る。

その表情が気になって,立ち去るのが一歩遅れた時。

こなつちゃんは妙に納得した顔をして,お腹と口元を押さえながら,心底おかしそうに笑った。

ふ,ふふふと声が聞こえて,困惑する私にどうしたらいいかと深刻そうな顔の榛名くんがいる。



「ふふ,ふふ……ふ……っ。先輩って,可愛いんですね。キスとか全部そうって言うなら,確かに私は元カノ?」

「こなつ!」



余計なことを言うな。

含んだ声が,こなつちゃんよりもずっと私に多くの情報を与えた。

焦った目,怖がる目。

ならもう聞かないよと思うけど,寧ろ耳を塞ぎたいのは何故か私の方で。



「そ……うなの。じゃあ私,もう行くね……? LHRに遅れるわけにもいかないし……本は,また返しに来ます」



私は私で一杯なのに,榛名くんの感情の渦にまで巻き込まれそうになる。

結局,声をかけたくなる弱々しい姿の榛名くんには声をかけられず,はいとにっこり笑ったこなつちゃんだけに視線を送って,私は逃げるようにその場を離れた。

< 22 / 119 >

この作品をシェア

pagetop