私を包む,不器用で甘い溺愛。
「その前に,よ? 甚平」
ギロリと呼び捨てで睨み付けると,前傾だった姿勢がやや後ろへそる。
「すずすずと許可もなく勝手に呼ばないでちょうだい。私達,たまに話すだけの仲でしょう?」
「あ,ああごめんよ,有村さん」
謝ったって遅いのよ,ばかね。
名字,さらっと思い出せる所くらいは美点だと思うけれど。
それよりもっっと大切なことがあるの,それが分からない内は振り向いてなんか貰えないわ。
「それから,あの子が他と少しズレているですって? 可愛らしいなんて言葉で繕ったって何の意味もない。あの子は普通の子でしょ,そして誰より優しい」
それを分かってのあなたの気持ちだと思ってた。
だから私は,傍観しながらもあなたを少なからず応援していた。
なのに
「あの子がそう見えるなら,ズレているのはあなたの方よ,甚平。残念だわ。甚平にはあの子が,"手前勝手なあなたの常識の中で,可愛く微笑むお人形"に見えていたのね」
あの子は,私の親友の有栖は。
気が小さく見えて,いつでも自分の考えの基に動いてる。
誰かの瞳に,有栖が都合よく映ったのならば。
それはただ有栖が譲ってやっているだけに他ならない。
有栖は誰より頑固で,芯の強い女の子よ。
「……俺の認識が間違ってた。ゴメンナサイ。でも,流石に心配なんだ,分かるだろ? 相手はあの榛名だ,今まで一体何人泣かせてきたと思う? 来栖さんはその辺がちょいとばかし分かってないんだよ」
何を聞いていたんだろう,この男は。
聞いているだけで頭がおかしくなりそうだ。
飲み込まれないようにしなくっちゃ。