私を包む,不器用で甘い溺愛。


この人の言葉は,悪意を隠した甘い蜜。

きっとそうやって,理解して飲み込んで引き下がったフリをして生きてきたのね。

そして同じことを有栖にもしたんでしょう。

だから"有栖が戻って来る前に"なんて言葉が,平気で飛び出てくるの。

本人は有栖に悪いなんて発想は出てこない。

だってこれもすべて,"来栖さんのため"。

全て終われば,"来栖さんもきっと分かってくれる"

でも,おかげで少し現状の理解が出来た。

なるほどね……。

騙されたと言うのは,有栖が榛名くんに傾いたってこと。

それを有栖が自分で選んだんだと信じたくないわけ。

目の敵にする榛名くんに,有栖が自ら靡くのを信じたくないわけ。

だから榛名くんをとことん悪者にし,逆に有栖の事は世間知らずの可哀想な子にしたがる。

臆病で,とっても可哀想。

悪いけど,それに私まで付き合う気はないわ。



「今はあと半年で卒業を控えて,来栖さんにとっても大事な時のはずなのに……!」


それまでの全てを聞き流して,考え追えた私はそこで机を強くたたいた。

他の人達には悪いけど,一瞬だけクラス中の空気をさらわせて貰う。
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