私を包む,不器用で甘い溺愛。


彼女,可哀想よ。

あんなに必死に怯えてる。

何があったの,どうしたの。



「前に出ちゃだめだ……っ?!」



そんな私を振り返ったのは,甚平くん。

その,後頭部を狙うように



「お前が榛名かァァ!!!」

「あ,危ない!」



榛名くん?! 違うわ,彼は甚平くんよ。

キャアと目をふさぐこなつちゃんの姿。

私はそれを瞳に映しながらも,咄嗟に。

彼の前へと出てきていた。

突然甚平くんの目の前に出た私に,レンガを振り上げた大きな男も目を丸くする。

大きな一歩の助走をつけた彼は,もう自分の意思でも止まれないと見えて。

ーガンッ

その大きな一歩分の空間に飛び込んできた人間が,私の代わりになってこめかみを殴られた。



「……榛名くん?!!」



呆然とする余裕もない。

だって,たった今飛び出てきたのが誰かなんて,よく見なくても分かる。



「お前……! 大丈夫か?!」



はっと意識を取り戻した甚平くんも,反動で倒れた榛名くんのそばで片膝をついた。
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