私を包む,不器用で甘い溺愛。
考えるように顔を歪めたお義母さんは,最後にふぅぅぅぅぅと息を吐いて少し吸うと,こくんと頷いた。



「本当に,お恥ずかしいわ。……あの子,打撲と点滴と数針縫ったのもあって,見た目が少々大袈裟なのですけど,あんまり心配しないで下さいね」

「はい,分かりました」



気丈に振る舞っても,その緊張が伝わる。

私は見ないフリをして,彼女と共に病室へ足を踏み入れた。

起きていた榛名くんは,窓のそとを眺めていて,共に入ってきた私達を見る。



「……榛名くん……!」



駆け寄ると,反応がない。



「榛名くん……?」

「俺を,知ってるの?」

「榛名くん?!!」



お義母さんが信じられない様な顔で,私の横に並び彼に触れる。



「……だれ」


離して貰ってもいい?

そんな声が聞こえそうなほど。

そう,まるで噂されていた彼そのものの様な空気感。



「ああ,どういうことなの……?! そんな……全力で嫌がられた方がずっとましだわ……!!! お医者様,お医者様を呼んできます! 有栖ちゃん,少しだけ,少しだけお願いしますね……!」



ぱちんと状況を飲み込んで,榛名くんのお義母さんは



『朝から騒いでしまってごめんなさい』



そう扉の前で他の患者さんたちに頭を下げると,パタパタと出ていった。

< 74 / 119 >

この作品をシェア

pagetop