私を包む,不器用で甘い溺愛。
どういうことなの?
つまり……
「榛名くん,私のこと……憶えてないの? 今のだって,榛名くんのお義母さんじゃない……」
「じゃあ,あなたは? と言うより,俺は誰のことなら憶えてるんだろう。って,丁度考えてたところなんだよ」
自分の状況を飲み込んで,そんな風にコロコロと笑う榛名くん。
間もなくお医者様はやってきて,じっと榛名くんを見つめるといくつか問答をした。
「君は……何が分かって何が分からないか,はっきり自覚して分かるかい?」
「さあ,どうだろう。例えばここが病院で,俺の名前が三宅榛名で,そんな俺は怪我をしていて,白衣のおぢさんが医者なんだろうって事は分かる」
ー日本語も,必修で習っただけの英語だって話せる
両手をパッと広げた榛名くん。
右肩から腕にかけても打撲がある筈なんだけど,そんなに大きく動いて大丈夫なものなんだろうか。
「日常生活に置いての基礎的な事は分かるんだな。それで,分からないのは?」
「自分以外の名前,性格,俺との関係」
「……なるほど」
「予測ぐらいは出来るよ? 例えば俺を心配そうに見てくれてるそこの女性は,もしかしなくてもお母さん?」
ふるりとお義母さんは全身を震わせた。
両手を前で組ませ動かすと,やがて懺悔するように口を開く。