私を包む,不器用で甘い溺愛。




「君は……強がりだな,来栖さん」

「ん,まあ,んふふ,そうなんです。私ってば昔っから負けず嫌いのきらいがあって」



目の前のこの彼に,何を隠すことだって出来ない。

そうよ,全部私の強がりなの。

意地っ張りでどうしよもない感情なの。



「本当にあいつがいいのか? 俺は皆皆あいつを庇う理由が,ほんの少ししか分からない。今回みたいに逆恨みも受けるだろうし」

「それは,いいんです,私。今回みたいなのは行き過ぎですけど,報いであるなら,私もそこに乗っかるだけなんです」

「人間過ちは繰り返す。もしまた前みたいになったら,ならなくてもほいと捨てられたら」



本当に心配性なんだから。

前みたいな,榛名くんへの悪意は1つも感じない。

ただ眉を狭めて私に詰め寄る彼を見ていると,どうにも笑いが込み上げた。



「ふふ。そんなの,誰とお付き合いしたって同じことだわ。それに,前みたいにって,そんなの私がさせませんもの! きっと,フラれたっておんなじよ」

「そうか……させない……来栖さん,君は,本当に……本当はとても強い女の人だったんだね」



何故だかとってもくすぐったい言葉。

私にはもったいないわと思いながら,私は笑う。



「甚平くん,私ずっと思っていたんだけど,有栖でいいわ。それも呼び捨て。ほら,この前榛名くんの目の前で呆然とする私の意識,そうやって戻してくれたでしょう?」



初めてだった。

甚平くんにそう呼ばれたのは。

私を敬称やちゃんも付けずに呼ぶのは,今までほとんど紗ちゃんだけだった。

甚平くんが私を呼んでくれなかったら,いつまで私あそこで呆けていたんだろう。



「あり,す」

「はい」



私がくすりと返事をすると,甚平くんはまたあの快活な笑みをにっと浮かべた。



「分かったよ」

「あら,どこへ行くの?」

「ちょっと最後に。あ,さっき困ってたトイレ,もう空いていたようだよ」



ふりふりと,彼は私に手を振り歩く。

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