私を包む,不器用で甘い溺愛。
「つまり,お前に譲ってやるっていいたいのか」
低くなった声に,わざとらしく困ったように眉を下げるそいつ。
「……嫌だなぁ甚平さん。そんな人聞きの悪い事言わないで下さいよ。俺が引くってだけの話し……」
「彼女気付いてんぞ,お前の演技,全部全部。俺,自分で気付いて最初あんな風に言ったんじゃねぇ」
言わないでおこうと思ったのに,遮ってまで教えてしまった。
目を丸くする様が心底ゆかいにおもえる。
「そうですか,そうですよね。そんな繊細さじんぺ……」
取り繕いも,俺の前じゃ何の意味もねぇ。
「彼女,ほんと強いんだな。お前が死ぬかもしれない恐怖の中でも,お前に他人の扱いされても,俺の前じゃぜってぇ泣かないってんだもんな」
誤魔化すな。
心底動揺しているくせに。
有栖を必要以上に傷付けていると,今すぐにでも走りたいくせに。