私を包む,不器用で甘い溺愛。
「待ってください,甚平さん」
「あ~?」
「状況が変わりました。ありすは,絶対に,あなたにはあげません。彼女は俺が貰い受けます」
「彼女はものじゃねぇぞ」
「当たり前ですよ,何言ってるんですか。ありすが嫌がっても,一生かけて落としてやるっていってんです。残念でしたね」
ケッと一睨みし,注目を浴びながら教室を出ると,有栖と鉢合わせる。
やべっと思ったのが顔に出たのか,有栖は訝しげに俺をみた。
「どうしてこんなところに? ああ榛名くんに会いに来たのね? ……ね,相変わらずでしょ?」
「ん,まあ」
俺と有栖の相変わらずは違う。
そう分かりながら,曖昧に濁す。
「珍しいのね,あんなに榛名くんを嫌っていたのに」
「や,別に嫌っていたわけじゃ……」
「何を話していたの?」
純粋なその瞳に,どくんと心音が大きく響いた。
有栖に話せることがあったかと冷や汗をかきながら,つい視線がさ迷う。
フラれてまで,間抜けを晒したくない。
「……そう,私は仲間はずれってわけですね,いいですよ,別に」
そんな態度が有栖を拗ねさせてしまった。
可愛くて,困る。
「あいつ,俺に有栖取られても文句いわな……」
「何ですか,それ」
「やっちょっと待って,そうじゃな……」
有栖は自分の両腕を胸にそえて,俺の横をたっと走り抜けた。
終わりきれなかった言葉に,俺の言い方も悪かったかなと反省をする。
まぁ,もうしーらんべ。
あいつが上手くやんだろと,また一振りした塩を思い浮かべた。