私を包む,不器用で甘い溺愛。


何も,キスをねだられてるわけでもない。

緊張はするけど,ハグだってそんなに本気でするわけじゃないと思うし……

それに,たったの3秒よ,有栖。

それくらいなら,何とかなるんじゃないかしら。

私はただ,両手を広げて待っていれば良いんでしょう?

それとも,なにもしなくていいのかしら。



「わ……分かったわ。じゃ,じゃあ……」



こう?

きゅっと目をつぶると,後ろから腹部に誰かの腕。



「うきゃっ……。……? は,榛名くん? ごめんね,時間,かけすぎたかしら」

「あーりす。もう俺と付き合ってるんだったら,他の男に抱き締めさせちゃだめでしょ? 全く,デートほったらかして何処に言ったのかと思えば……うわきだ,ありすの浮気者~」

「ちっ違うわよ,冗談よして」

「可愛く目なんか閉じちゃって,キスでもされたらどうするんです? ねぇ甚平さん」



ちゅっと目蓋にキスをされる。

頬に触れた手が,離れていかない。



「しねぇよそんなこと。……でも悪かった。お前のいないところで。彼女,もうすっかりお前のだもんな」

「分かってくれたみたいで良かったです。じゃあ俺ら,これからデートなので」



すたすたと私を優しくリードしながら歩く榛名くん。


「ちょっと榛名くん! 挨拶くらいきちんとしなくちゃ……! 甚平くんは私が呼んだのよ……?」

「有栖!」



後ろから声がする。

榛名くんは首だけで後ろを見て,弱まった手の力に私は180度身体を回した。

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