迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
真紀がフランスへ戻り数日後。
久しぶりに私の両親から電話が入ったのだ。
私の両親は、3年前に父が早期退職をして、若い頃からの夢を叶えるため、伊豆諸島の大島でペンションを始めていたのだった。
自分たちで作った野菜と、その日に釣れた魚をお客様に提供することが、少しずつ口コミで話題になり、今では常連のお客様で一年中忙しくなっていた。
母はもともと料理が得意なこともあり、資格を取ってペンションでレストランも営んでいる。
そんないつも忙しい両親からの電話は久しぶりだった。
母親が少し驚いたように大きい声で話している。
「唯かい?唯の住んでいるアパートの前に居るのだけど、なんか工事中みたいね。驚かせようと思って黙って来たけど、唯は今どこにいるの?」
両親には水漏れ事件を伝えていない。
当然、玲也の家にお世話になっているなんて言っていないのだ。
「あの…あのね…実は…会社の上司の家にお世話になっているのよ。」
すると母親はさらに大きな声を出した。
「まぁ…なんでそんな大切なことを言ってくれなかったの…私達も上司の方にご挨拶しないとならないわね。」
母親に上司も忙しいと伝えたが、絶対に挨拶をすると言って譲らない。
とうとう押し切られて、今日の夜に玲也のマンションに来ることとなってしまった。
しかし、玲也に伝えるとなぜか喜んで両親を歓迎すると言っている。
なんだか嫌な予感がして気が重くなる。