迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
「お父さん、お母さん、こっちこっち!」
最寄り駅で両親を見つけた私は大きく両手を振った。
すると、最初に駆け寄って来たのは母親だ。
なんだかすごく嬉しそうである。
「元気だった、唯。…でも驚いたわ…とても良い上司の方が居て良かったわね…何と言う女性なの?」
考えてみれば当たり前かもしれない。
上司は女性だと思っている。
これは何と説明したら良いのだろう。
「あのね…その…上司って言っても…すごく上の役職なの。」
「まぁ…すごい方にお世話になっているのね…お母さん達もしっかり挨拶しなくちゃね…課長さんとか部長さんなのかしら?」
「ええと…もっと上…CEOなんだけど…男性なの…」
すると、母親はいきなり大きな口を開けて驚いている。
驚き過ぎて言葉が出ないようだ。
もう、全て話す覚悟を決めた。
「あの…うちの会社のCEOは、橘クロード玲也さんという方なの…実は私のアパートの上の階に弟さんがいてね…それで…」
母親は言葉を遮るように話し出した。
急に表情が厳しくなっている。
「唯…そんな立場の人があなたを…あなたは、遊ばれているのじゃないの?」
母親は今まで以上に大きな声をあげた。
周りを通る人達もこちらに振り向くほどだった。
「そんな…玲也さんは、そんな人ではないよ!」
母親は私を見つめながら、ふるふると小さく震え始めた。
すると、父親が母の肩に手を置いて、私を見た。
「唯、どちらにしても、お世話になっている事には変わりない。マンションに案内してくれ。」
私は父親の言葉に静かに頷くと、マンションに向けて向きを変えた。
母も父に背中を押されて歩き始めたようだ。
マンションンまでの道のりは、いつもなら5分程だが、この状況で無言の時間は数時間にも感じるようだ。
マンションに着いてエントランスを過ぎると、あまりの豪華さに両親は周りを見渡している。
エレベーターが最上階に止まり静かに開いた。
そこに立っていたのは、玲也だった。
玲也は両親に向かって深々とお辞儀をすると、まずは部屋に入るよう促した。
両親は広いリビングへ通されて、ソファーに座った。
すると、玲也は両親の真正面に立ち上がった。