迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
「花宮さん、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。私は、橘クロード玲也と申します。唯さんの勤務されているブラックローズ社でCEOをしています。」
すると、父親は目を閉じて静かに話しだした。
「唯が大変お世話になっているようで、ありがとうございます。…ただ、まだ嫁入り前の女性を自分の家に住まわせるとは…どういうお気持ちなのでしょうか。」
私は慌てて父親に声を上げた。
「違うの!もともとは私が勝手にここへ来たのよ!」
玲也は私の肩に手を置いた。
そして、私に微笑みながら首を振って見せたのだ。
「順番は逆になりましたが、私は唯さんをとても大切に思っています。…この場で言うのは不謹慎かもしれませんが、唯さんとこれからも一緒に生きていきたいと思っています。」
父親は低い声で冷静に話し始めた。
「貴方のような立場の方が、唯では釣り合わないでしょう。いくら貴方に気持ちがあっても、社会的にも貴方のご両親も納得しないはず。」
すると、突然にリビングのドアが静かに開いたのだった。
そこから入って来たのは、なんと玲也の母親だ。
まるで、出るタイミングを計っていたかのように現れたのだ。
いつの間に、ここに来ていたのだろうと、私も驚いて目を見開いた。
「お話の途中に失礼をお許しください。…私は玲也の母親です。」
玲也の母親の登場に、私も驚いているが、両親も驚きで言葉が出ないようだ。
玲也の母親は私の両親の前まで来ると、玲也の隣で同じように頭を深々と下げたのだった。
「常識のない息子を許してやってください。ただ、順番はまったく可笑しな話ですが、唯さんに対する気持ちは信じてやってください。もちろん私も唯さんになら、玲也を安心して任せることが出来ます。花宮さん、どうか許してください。」
父も母も少しの間、言葉を失って動けずにいたが、父と母は二人で顔を合わせて微笑んだのだった。
父は玲也と、目の前の玲也の母親に向かって話しだした。
「甘やかして育てて、不束な娘ですが、素直な子に育てたつもりです。どうぞよろしくお願いいたします。」
父の言葉を聞いて、玲也は俯いていた顔を上げて父を見たのだった。
私は予想もしない言葉に息が止まるほどだ。
そして、玲也は何も言えずにいたが、瞳にはみるみるうちに涙が溢れてきた。
玲也の母親も下を向いて肩を震わせた。