迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。

未来へ向けて


それから約1年後の晴れの日。


今日は朝早くから、何人もの人が私のヘアアレンジやメイクアップをしてくれている。

髪は念入りにカールさせて、ふわふわとしたシニヨンになっている。

キラキラとパールの髪飾りがつけられた。

メイクも念入りに時間をかけている。
普段あまりメイクをしていない私は、メイクアップとはこんなにも手を掛けることなのだと驚いた。
メイクの最中に、アイラインの形などいろいろと好みを聞かれたが、分からないため全てお任せだ。

ただ、どうしても一つだけお願いしたい事があった。
それはずっと前から、そうしたいと思っていたのだ。

仕上げのルージュは、私の大切な宝物を使って欲しい。

ブラックローズの深紅の口紅。

姉の形見でもあるこの口紅を、私の一番大切な日に使いたかったのだ。


その口紅を唇に乗せた時、不思議と温かい空気に包まれたような気がする。
姉が近くに居たのかも知れない。

そして今、鏡に写った私。
鏡に写ったその人物は、自分ではないように感じるほどだ。

それは自分で言うのもおこがましいが、今までの人生の中で一番綺麗な私の姿だった。


純白のドレスを着せられた私は、今、大きな扉の前に立っている。

扉の前に迎えに来てくれたのは、私の父親だ。
ペンギンのような燕尾服をカッコよく着こなしている。

「唯、…お父さんの最後の仕事だ…一緒に行こう。」

音楽が流れ、扉が開く。

ここは教会だ。

父と絨毯の道を歩き出した。

一歩ずつ、確かめるように一歩ずつ歩く。



そして、前を向くとそこには…。



微笑を浮べて手を伸ばして待っていてくれる男性がいる。

私の大好きな人…いいえ…愛している人だ。



父は玲也に私の手を渡した。


玲也は私の手をしっかり握ると真剣な瞳を向けた。


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