迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。

こんな真夜中にどこかに放りだされても困る。

私は失礼を承知の上で、蓮のお兄さんへ明日までここに居させてくれるよう頼むことにした。
すると、蓮のお兄さんは優しい微笑を浮べた。

「もちろん、出て行けなんて言わないよ。それに蓮がご迷惑をお掛けしたのだから、部屋が元通りになるまで居てくれて構わないよ。ホテルの方が良ければこちらで手配も出来るし、君の好きな方にして欲しい。…でもホテル住まいは長くなると結構不便だから、嫌じゃなければここを使って欲しい。使っていない部屋もあるから、自分の家だと思って自由に使ってもらって構わないよ。」

蓮のお兄さんはとても優しい人で良かった。
しかも、先程まで慌てていて気が付かなかったが、美少年の蓮に負けず劣らず、むしろ大人の魅力がプラスされている。
美丈夫?眉目秀麗?ありとあらゆる言葉を浮べるが、言葉では言い表せない美しい姿。
涼しげな目元は少しブラウンで蓮と同様に日本人離れしているが、どこかエキゾチックな雰囲気もある。
ふわりとした柔らかい感じのダークブラウンの髪を少しウェットにビジネス仕様に整えている。
ローマ彫刻を彷彿とさせるのような鼻筋と、バランスの良い少し薄い唇。
どこから見ても非の打ち所がない絶妙なバランスの美形。

それにこれだけの家に住んでいるのだから、当たり前かもしれないが、紳士的でいかにも社会的地位もありそうな男性ではないか。

私が答えに困っていると、その男性は高い身長を私と同じ目線になるように屈むと、私の顔を覗き込むようにしてもう一度微笑んだのだ。
美形がこんなに近くで微笑むと、ものすごい破壊力だ。
私の心臓は急にドクリと大きく跳ねあがり、飛び出してしまいそうな勢いだ。

「唯ちゃんと言ったよね。…僕は玲也(れいや)、橘 クロード 玲也と言います。知らない男で不安だと思うけど、部屋にはそれぞれ鍵がかかるから…どうかな?それに弟のお詫びもしたいから、ここに暫く居る事にしてくれないかい。」

そこまで言われると、断りずらくもなる。
結局、部屋が直るまで、ここにお世話になることになった。
しかし、こんな魅力的な男性と一緒に暮らすなんて、心臓が持つか不安なくらいだ。

そして、今日はもう深夜と言う事もあり、私は用意してくれたゲストルームで休むことにした。
ゲストルームも思った以上に豪華なつくりだ。
部屋の中にシャワールームまでついている。
ちょっとした高級ホテルよりも、豪華なうえに居心地が良さそうだ。

大きなベッドが部屋の中央にあり、私はそこに向かって仰向けにポスっと音を立てて寝てみた。
私の家にあるベッドはまだ3年くらいしか使っていないのに、最近は寝返りを打つと、ギシリと音が出るようになってきたのだ。
安物に飛びついた自分に後悔していたところだった。
しかし、このベッドはさすがに高級なのか、音どころか体の沈み具合も心地よい。
コロンと寝がえりを打っても、体を包んでくれるような寝心地だ。

今日はいろいろなことが有り過ぎた。
自分では気が付かなかったが、そうとう疲れていたようだ。
布団に入って間もなくして意識がなくなっていた。

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