迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
いつもより早く到着したオフィス。
とても静かで、少し冷たい空気が気持ちを引き締める。
私は席に座りノートPCを開ける。
まだ誰もいない部署内にカタカタとキーボードを叩く音が響き渡る。
「よしっ。できた!」
静かなオフィスのせいか、仕事がいつもより捗る。
皆が出社してくる前に資料はなんとか出来上がった。
私は一息つくために缶コーヒーを買いに販売機へと向かった。
ガシャン大きな音を立てて販売機はコーヒーを受け取り口に落とす。
その時だった、誰かが話をしながら近づいて来る音がする。
何気なく音のする方に振り向くと、そこには直人と部長らしき男性が二人で歩いて来るのが見える。
私は思わず、柱の陰に隠れた。
すると、二人の話し声が聞こえてくる。
「直人君、うちの娘はもうすっかり君に夢中のようだ。しっかり頼んだぞ。」
「はい。」
「ところで君は彼女と、もうちゃんと別れてくれたんだろねぇ。」
「…はい。部長のおっしゃる通りに…本当にこれで僕をマネージャーに推薦してくれるのですよね。」
「可愛い娘と婿のためだ、それは約束する。」
「ありがとうございます!」
部長は娘のために、直人をマネージャーにしてやると言って、私と別れさせたのだった。