迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
翌日、電車の中で理子の話を思い出していた。
玲也からお願いされた、期間限定の恋人話がこんなにも早く広まるとは、考えただけで気が重い。
最悪の気持ちで会社の玄関に到着した。
すると、早速女性が数名会社の前に立っているではないか。
気づかぬ振りで通り過ぎようとした時、その女性たちは私の行く手を阻むように目の前に立ったのだ。
「おはよう、花宮さん。少しお話があるのだけど…良いかしら?」
私に話し掛けてきた女性は、確か総務でお局のような女性だ。
美人ではあるが、威圧的な表情でなんとも言えない恐怖を感じる。
「あっ、あの…何でしょう…か。」
「花宮さん、単刀直入に聞くけど…あなた、CEOの恋人だって噂は本当なの?」
もうここは、腹を括るしかなさそうだ。
玲也に協力すると約束してしまった以上、話を合わせるしかない。
「えっと…その…ほ…ほ…本当です。」
すると、女性たちは固まったように一瞬無言になったが、次の瞬間皆が大きな悲鳴のような声をあげる。
「…本当なの!!」
「イヤーーーーー!!」
そして、総務のお局はさらに私を睨みながら話し出した。
「花宮さん、私は信じないわ…CEOとあなたでは釣り合わないもの。」
確かにその通りでございます。…と言いたいけれど、これはどうしたものかと悩んでいた時だった。
「唯!こんなところで何をしているんだい?」
声に驚き振り向くと、そこには営業スマイルをばっちり決めた玲也がそこにいた。
すると、さっきまで鬼のような表情だった女性たちが、一瞬で溶けてしまいそうな顔に変わる。
そして、玲也は皆に向かって微笑を浮べながら話し出した。
「皆に内緒にしていて悪かったね…ここにいる花宮唯さんは僕の大切な女性(ひと)なんだ。どうか、優しく見守ってくれないかな。」