迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。

「…やめろよ!!嫌がっているじゃないか!」

突然、後ろから男性の声がした。その声は聞き覚えのある声だ。
恐怖でギュッと閉じていた目を開けると、そこには信じられないが、玲也の姿があったのだ。

「玲也さん!…助けてください。」

青柳君は私が玲也に助けを求めたことで、さらに腹を立てたのか、私に向かって拳を振り上げた。

「唯!何を言っているんだ。なぜ、こんな奴に助けを求める…この女、許さねぇ!」

殴られるのを覚悟して目を閉じた。すると、すぐにドスッという鈍い音がしたが、私に痛みが無い。
恐るおそる目を開けると、そこには私の代わりに殴られた玲也がいた。
口元からは、少しづつ血が滲み始めている。

「玲也さん!大丈夫ですか…私のせいで…ごめんなさい。」

青柳君は、私を庇った玲也に向かって大きな声をあげる。

「お前、どこのどいつだ!この女は俺の女だ。いくら庇ったってこいつは俺に惚れていたんだからな。さぁ唯、こっちに来いよ。」

今まで静かに聞いていた玲也が、鋭い目で青柳君を見た。

「何を言っているのかな、彼女は僕の恋人だ。君みたいな汚いやつに渡せない。」

玲也の言葉に青柳君は怒りで顔を真っ赤にしている。

「何を言っているんだ。俺は会社の経営者だぞ、俺に反抗するとはいい度胸じゃねぇか。」

すると、玲也はフッと口角をあげて笑った。

「…経営者ねぇ…人の会社の仕事を横取りして、汚い方法で大きくなった会社だろ…悪いけど、もう君のことは調べたよ。うちの秘書は優秀でね…君、この会場の入り口でどこかの人と言い争っていたね。君に裏切られた経営者かな?何か嫌な予感がして、すぐに調べさせたんだ。案の定、きみは唯ちゃんの同級生だったということだ。」

「お…お前…何者なんだよ。」

「名乗るほどの者じゃないけど、君には言わせてもらおう…僕はブラックローズ社のCEOをしている、橘玲也だ。唯ちゃんの恋人だよ。」

青柳君は玲也の名前を聞いて、一瞬で顔色を変えた。急に声も小さくなる。
どんな会社であっても、青柳君も経営者だ。
有名な玲也の名前は聞いた事が有るのだろう。
握った拳が小さくフルフルと小刻みに震えているようだ。

「ブラックローズって…あの…有名な、敏腕社長だと話題の…橘玲也なのか!」

「敏腕社長かどうかは自分では分からないが、僕も経営者だ。君と違って違法な取引などしていない。真面目に仕事しているつもりだ。」


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