迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。
「玲也、元気そうだな。」
その男性は玲也に向かって、ふわりと笑顔を向けた。
玲也が私を紹介しようと、私の方に手を置いた。
「お父さん、…こちらの女性は…」
すると、玲也の言葉を遮るようにその男性は大きな声を出した。
「紹介はいらない。私は許した覚えは無いよ…玲也。」
「お父さん…僕は京子さんとは結婚しない。何度も伝えましたよね。」
さらに父親は大きな声を出した。
「お前は自分の立場が分かっていない。天王寺家とつながることが、これからのブラックローズ社にとっても橘家にとっても、どれだけ重要な事なのかを分からないとは言わせないぞ。」
少し沈黙の後、玲也は静かに話し出した。
「ブラックローズ社の未来は、違う形で大きく安定して見せる。だから、僕はここにいる花宮唯さんと結婚するつもりだ。」
父親はフッと呆れたように笑った。
「私がお前たちの嘘を知らないとでも思っているのか?全部調べさせたよ。そこにいる女は蓮のアパートに住んでいたことも分かっている。蓮の代わりにお前がそこまでする必要は無い。」
父親は持っていた鞄を開けると、中から紙袋を取り出した。
そして、その紙袋を私に渡そうとして目の前に差し出した。
「こ…これは…何でしょうか…。」
父親は無表情で私を見た。
「君には十分すぎる金額だと思うぞ。これをもって今すぐここから出て行ってくれ。そして玲也に付き纏うのはやめてくれ。」