迷惑をかけた相手になぜか溺愛されたようです。

窓ガラスを割って中に入って来たその人は、私達を見つけるとすぐに声を上げた。


「唯ちゃん!」


暗くてよく顔は見えないが、その声は玲也の声に間違いない。


「玲也さん!助けてください。」


青柳君が窓からの侵入者に動揺した瞬間に、口を塞がれていた手をなんとか逃れて声を出した。


「唯ちゃん!そこにいるんだね。」


玲也が近づいて来ると、なんと青柳君はどこに隠していたのか刃渡り10センチくらいのナイフを取り出したのだ。
そして次の瞬間、青柳君は私の首にナイフを突き立てた。


「これ以上近づくと、唯の首にこのナイフが刺さるぞ。」


青柳君の大きな声を聞いても玲也は動揺せずに、ゆっくりと近づいて来た。


「脅しじゃないぞ、唯が死んでもいいのか?」


しかし、玲也は無表情のまま、すばやく素手でナイフの刃を掴んだのだ。
そして私の首から力ずくでナイフを引き離した。

しかしナイフは玲也の手に容赦なく食い込み、ぽたぽたと血が流れ落ちて来た。
青柳君は玲也の行動にかなり動揺しているようだ。


「お…お前…何しているんだ。ナイフが手に刺さっているぞ。」


すると、玲也はフッと小さく笑った。


「大切な女性(ひと)を助けるのに、俺はこれくらいの傷なんてまったく問題ない。」



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