捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして

プロローグ

「なあ、お前」
　婚約者であるトラヴィス・ウィラードから『お前』呼ばわりされ、イオレッタ・ベルラインはわずかに眉間に皺を寄せた。
　ベルライン伯爵家の娘であるイオレッタとウィラード伯爵家の三男であるトラヴィスとの婚約が成立したのは五年前。イオレッタ十二歳、トラヴィス十三歳の時である。
　あくまでも二人の関係は政略的なもので、円満な仲ではなかったけれど、少なくとも今までお前呼ばわりされたことはない。
　今、二人が向かい合っているのは、婚約者達が親交を深めるためのお茶会の席である。毎月一度、交互に互いの屋敷を訪れ、共に時間を過ごすのが定められた約束だった。
　テーブルの上には、香りの高い紅茶に、厨房の菓子職人が腕を振るった焼き菓子。
　現実逃避しているかのように、イオレッタは手でマカロンを取り上げた。
　マカロンを自分で焼こうと思うと難しいのだが、さすがベルライン伯爵家の菓子職人。いい腕をしている。間違いない。
「おい、聞いているのか？　伯爵家の娘として、礼儀がなってないんじゃないか？」