捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
 正当な後継者であるイオレッタを追いやることにはなんの疑問も持っていないのが矛盾してはいるが、彼の欲は名誉に向けられていた。貴族たるもの、民のために身を尽くすべきという考え方が彼の根本にある。
 彼が搾取するタイプの領主だったら、イオレッタもこんなに心軽やかに家出なんてできなかった。どうにかして彼から家を取り戻そうとしただろう。一応、イオレッタにもそれなりに矜持がある。
 伯爵家そのものに未練はない。爵位なんて、欲しい者が持てばいい――民を大切にできるのであれば。そして父と呼んでいた人は、その点においては信頼してもいい。

 十日後。
 イオレッタはベルライン家の領地を出て、国境近くにあるゴルフィアと呼ばれる街に到着していた。
 まっすぐ来れば五日ぐらいで到着できるのだが、領地を離れるのは初めてだった。あちこち立ち寄り、ついでに観光なんかもしてみた結果、倍の時間がかかってしまった。
(まずは、冒険者組合に滞在届を出そうかしらね) 
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