捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
 あまりこの家に戻ってこないのは、もうひとつ家庭があるかららしい。
 母は頑として認めようとしないけれど、口さがない使用人達がそう噂しているのを知っている。
「だって、私は精霊使いじゃないから、あの人と結婚できたんだもの」
 うっすらと微笑む母は、何を考えているのだろう。
「そんなこと言っても、お父様、帰ってこないじゃない……ずっと帰ってきてないじゃない……!」
 母の前で、ついうっかりそう漏らしてしまった。
 父と母の婚姻が、祖母の肝入りで行われたこともちゃんと知っている。
 精霊使いとしての力を持っていない母のために、次代に期待を繋いで父が選ばれたのだと。実際には母は精霊使いとしての力を持っていたし、その気になれば精霊を行使することもできたのだけれど。
(結婚前から、好きな人がいるって……なのに、お父様と結婚したかったの?)
 何人かいた候補者の中から父が選ばれたのは、母が父に恋していたから。
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