捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
 視線の先にあるのは、引っ越してきたばかりの家の天井。長年見てきた生家の天井でも、冒険者組合の持つ宿泊施設の天井でもない。
(……なんで、思い出してしまったのかな)
 ベッドに横たわったまま、両手で顔を覆った。
 母との思い出は、そうたくさんあるわけではない。ベッドで過ごす時間が長くなればなるほど、彼女の心の中で、イオレッタの占める部分は小さくなっていった。
 時々、用事ができた時だけ家に戻ってくる父にまとわりつく母の姿と、うっとうしそうに母を追いやる父。これが、イオレッタの記憶にある両親の姿だった。
(お母様、本当に、あの人のどこがよかったんだろう……)
 精霊使いとしての能力を、完璧に発揮していたところだろうか。自分の父親ではあるが、イオレッタなら絶対あの人は選ばない。
(私が精霊使い――ううん、精霊師だって知ったら、きっとあの人は……)
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