捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
 イオレッタの腕を掴んだ彼は、そのまま歩き始める。イオレッタの歩幅に合わせてくれているようで、ついていくのに大変ということはなかった。
「ほれ」
 と、差し出されたのは、香辛料をたっぷりと効かせて焼いた肉の串焼き。こういうお祭りでは定番の食べ物だ。
「あっついですよ!」
「ふぅふぅすればいい」
 ふぅふぅって子供じゃないのに。
 やっぱりお守りさせているんじゃないかな、と思いながらも串焼きにかぶりつく。ジューシーでありながらも、歯ごたえもしっかりしている。香辛料がいい仕事をしている。
(……どうしよう)
 楽しい、と思ってしまってもいいだろうか。
 たくさんの人が行き交う中でも迷うことなくすいすい進むクライヴの動きは、こんな時でも優美さを失っていない。
 歩きながらも休むことなく肉を頬張っているが、不思議と見苦しくないのだ。
(やだなあ、ううん、いやじゃないんだけど)
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