捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
「かまわん。人間の王族に会うのも面倒だ」
 面倒って――言い方はどうかと思うがわからなくもない。イオレッタ自身、面倒だ。
 御者台にはタデウス、幌をかけた荷台に残りの面々が座る。
「スィア湖までは、半日かかるんだろ? 吾輩の背に乗って行くか? 一瞬でつくぞ」
「それはちょっと」
 セルヴィハの背に乗って空を飛ぶという提案に心惹かれなかったわけではないけれど、セルヴィハ目当ての王族に気づかれたら面倒なことになる。
 というわけで、天下のドラゴン様も馬車に乗ってごとごとと移動である。
「飛んだ方が速いのにな――」
「セルヴィハさんだけ、先に行ってもよかったんですよ?」
「な、そなた、吾輩を仲間外れにするつもりか?」
「いえ、そんなつもりはなかったんですけど!」
 ゆっくりと進む馬車の中、セルヴィハはいくぶん不満そうであった。
 イオレッタの差し出したクッキーをもしゃもしゃと食べながらも、不満を隠すつもりはないらしい。
「こういう不便も楽しめないと、人の間に交じって生活するのは難しいぞ」
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