捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
 ゼルマが生きていた頃から存在していたワイナリーだそうで、自分の好きな味をお供えしてほしいという頼みだった。
(ゼルマも、いつかここに来ることができたらいいな)
 今は家から出られないけれど――いつか、家から外に出て、自由に外出できるようになればいい。
 イオレッタもいつまでも生きているわけにはいかないし、ゼルマにはゼルマの人生――と言っていいのかどうかは別として――があるのだし。
「ゼルマはおいしいワインだって言ってたから、精霊神様が気に入ってくださるといいんですけど」
「きっと気に入ってくださるさ」
 湖の大精霊は精霊神となって以来、人間と言葉を交わすことはなくなった。
 精霊達いわく、言葉を交わすと交わした相手が、神気に当てられて体調を崩してしまうかもしれないからだそうだ。
(変なの。なんで、こんなに懐かしい気がするんだろう――)
 イオレッタはここで生まれ育ったわけではない。ここを訪れるのも三度目。
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