捨てられた令嬢はチートな精霊師となりまして
(ここに来ることはもうないと思っていたのに――)
 トラヴィスに連れられて、何度か訪れたことがあるけれど、もうここに来ることはないだろうと思っていたのに。
「……早くしろ。吾輩は気が短いのだ!」
 空に向けて、セルヴィハは炎を吐き出した。周囲を囲んでいる騎士達の緊張感が増す。
「セルヴィハさん、あまりふざけては駄目ですよ? 真面目な話をしに来たんですから」
 セルヴィハの脇腹を、イオレッタはちょいちょいとつついてやった。むぅと唸ったので、ついでに彼が下げた頭をよしよしとしてやる。
 吠えるドラゴンにまったく怯えず撫でまわしているイオレッタに、周囲は恐ろしそうな目を向けてくる。
「御者さん、ここまで付き合わせてしまってごめんなさいね。すみません、どなたか御者さんを休ませてあげてくれませんか?」
 馬車ごと持ち上げられて運ばれるなんて、想像してもいなかっただろう。そもそも彼に罪はないのだ。
「そうだな、そいつは罪人ではない」
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