君のそばにいたい 〜『君が望むなら…』続編〜
 私は過去を捨ててきた。

 上流階級の家に三人姉妹の次女として生まれた私は、適齢期になったばかりで貴族である相手と結婚をし、常に孤独を抱えて過ごしていた。

 転機は、嫁ぎ先の屋敷を抜け出し暴漢に襲われたあの日。

 やっとこの運命から逃げられると思った。

 私は見つけ抱き起こしてくれた彼に別れを告げ、そのまま身一つで屋敷を去る。

 私の短い結婚生活はそうして幕を閉じた。

 屋敷を一人毎晩抜け出し、事故とはいえ身体を奪われた私に貴族の妻である資格はない。


 そもそも彼は誰からも好かれるほどの人当たりの良さで、似合いであった相手がいて、私との結婚が決まりその相手を諦めざるをえなかったのだ。

 彼は仕方無しに私と一緒になっただけ。
 私の方も貴族との結婚に興味はなく、本当は自由に生きたかった…

 しかし今でも、時々する彼の哀しげな表情が頭に浮かぶ。

 彼も私との結婚が重荷だったに違いない。
 一度も気持ちを尋ねたことはないから分からないけれど。

 いつも穏やかだった彼は、私に強く何かを要求したことはなかった。
 たった一度だけ、『笑ってほしい』と私に言った以外は……

 それでも私は屋敷を出たあの時からすべてを捨て、死んだことにした。
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